英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は否応なしに、原爆についてです。原爆投下から65年目にして、初めてアメリカ政府代表が8月6日の広島平和記念式典に出席した。しかし謝罪はおろか、発言も、献花もなかった。これはどうしてなのか。オバマ氏がニクソン的ではないからか。(gooニュース 加藤祐子)

選挙前だからか

 アメリカがなぜ広島・長崎の原爆投下に謝罪しないのか。謝罪するつもりはないのか。そもそも謝罪すべきなのか。この大きく重たいテーマをコラムという限られたスペースで充分に扱えるはずもありませんので、ごくごく一部のさわりだけをご紹介します。

 ルース駐日大使がアメリカ政府代表として初めて8月6日の広島平和記念式典にこれから参列するというタイミングで、フィリップ・クローリー米国務次官補(広報担当)がTwitter上で3回、ツイートしました。

 8月5日午後7時57分(米東部時間):アメリカ大使ジョン・ルースは、我が国の日本との友好の証しとして、広島の儀式に出席します。

 同午後7時59分:アメリカが第二次世界大戦後に日本の再建を手伝い、かつての敵国を強力な同盟国に変えたことを誇りに思います。

 同午後8時1分:広島で我々が謝罪すべきことは何もない(we have nothing to apologize for)が、戦争によって影響を受けた全ての人に敬意を示す(show our respect for)。

 クローリー次官補のTwitter自己紹介には、「広報担当の国務次官補として私は、アメリカ外交政策の重要性を多くの人に理解してもらうという国務長官の指示を実行しています(to help people understand the importance of U.S. foreign policy)」とあります。

 オバマ政権の代理である駐日大使は、参列はしたが発言も献花もしなかった。オバマ政権の外交政策を代弁する立場にある次官補は、「謝罪すべきことは何もない」と書いた。そうするしか、こう書くしか、ほかはどうしようもなかったのだろうと、私は思います。以下はもっぱら、私の意見です。

 プラハ演説で「核兵器のない世界を」と呼びかけつつ、自分が生きている間には実現しないかもしれないと認めたオバマ大統領の政権です。前政権のイラク戦争政策を批判し、「核兵器のない世界を」と呼びかけつつ、ノーベル平和賞授賞式で「Just War(正しい戦争)」の概念を主張した大統領の政権です。オバマ大統領という人は、世界を単純な白黒モノトーンではなく微妙な色合いのグラデーションで見ているようです。そういう人が「原爆投下は悪だった」と断定するはずもない。

 加えてオバマ政権は、こちらでも書いたように、アフガニスタン政策において支持率が過去最低を記録し、秋に中間選挙を控えている政権です。おまけに極端な保守派からは「社会主義」だの「ナチ」だの言われているし、「知的なのは結構だが優柔不断なリベラル。しかも軍事に暗い」大統領と見なされてしまっている(マクリスタル駐アフガニスタン米軍司令官解任の一件も、そのイメージに寄与しました)。

 そういう大統領が率先して原爆投下を謝罪する訳にはいかないのだろうと思います。政権が原爆を謝罪しようがしまいがコチコチの保守派はどうせ民主党には投票しませんが、コチコチではない浮動票がどう影響されないとも限らないからです。

 加えて、アメリカ政治には「中国に行けたのはニクソンだけ (It took Nixon to go to China)」という1970年代以来の言い回しがあります。どういう意味かというと、タカ派で反共で「アカ」の片鱗などどこにもない強面(イメージのある)ニクソン大統領でなければ、訪中など許されなかった、米中国交樹立など実現できなかったという意味です。国内の反共タカ派勢力を説得できなくて。バリバリの軍人による平和運動には説得力があるのと同じです。その伝でいくと、原爆投下への謝罪がアメリカ国内でも受け入れられるには、保守勢力も支持する共和党の政権でなくてはならないだろうと私は思います。

 そういうアメリカ政治の現実を踏まえた上で、ではなぜ、ルース駐日大使は初出席しながらも何も言わず、献花もしなかったのか。その方が、対国内的に適切だったのか(さらに言えば、ワシントン政界の人間ではなく、ワシントン的に失うものがない実業家ルース氏だからこそ、参列できたのだとも言えるかもしれません)。

無言の謝罪だったのか

「アメリカは謝罪しないしする必要などない。日本は卑怯な奇襲作戦でアメリカを襲った。アメリカを破壊しようとした。南京虐殺をはじめ、アジア各地で占領者として暴虐の限りを尽くした。全体主義・軍国主義の日本は、自国民をも抑圧した。アメリカが原爆を投下していなければ、日本本土決戦となり、多くの命が奪われたはずだ。原爆投下はそれを防いだ。戦争を終わらせることで、日本支配下にあったアジア各国のほか、日本国民にも自由と民主主義をもたらした。よって、アメリカは原爆投下を謝罪する必要など、何一つない」

 要約するならばこれが、毎年この時期になると繰り返される「アメリカは謝罪しない」派の主張です。悪いのは大日本帝国だったと。アメリカは解放者だったのだと。

「原爆は戦争を終わらせ、人命を救った。謝罪の必要はない」と考えるのは必ずしもアメリカの保守派だけでなく、東海岸のリベラル系大学で歴史教育を受けた民主党支持者(たとえば私の友人)にも、そういう考えの人はいます。ですが、どちらかといえばこの思考回路は保守派だと言える。保守派といえばまずはフォックス・ニュースです。

「広島式典でアメリカ代表団は謝罪しない」という見出しの記事で、フォックスは広島に原爆を投下した米軍のB29爆撃機「エノラ・ゲイ」の機長ポール・ティベッツ大佐(当時)の息子、ジーン・ティベッツ氏(66)に取材。ティベッツ氏は、政府使節の式典参加は「無言の謝罪(unsaid apology)」であって、07年に他界した自分の父は決して評価しなかっただろうと話しています。

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