三菱自と東芝、名門企業を蝕んだ「日本病」の正体

 ゼロ戦の血統にある三菱自動車、からくり儀右衛門の流れを汲む東芝。「技術と信頼」を看板にした名門企業が存亡に危機に立っている。粉飾決算やデータ偽装という信じがたい不正はなぜ起きたのか。

 トップの責任は言うまでもないが、手を染めたのは優秀とされる社員たちだ。東芝では経理・財務の専門家、三菱自動車では開発・検査に関わる技術者。なぜ彼らは不正に走ったのか。

 背後には日本の大企業が突き当たった壁がある。手厚い行政、官民癒着、キャッチアップ型経営、従順な社員。高度成長を支えた日本の美風がいまや災いに転じ、企業を迷走させている。

「性能実験部長が指示」は本当か?
三菱自動車、燃費偽装の深い闇

「ウチは大丈夫かね」。社員やOBが集まるとそんな話が必ず出る、と自動車メーカーの元役員はいう。三菱自動車で発覚した燃費偽装は、他人事ではないらしい。

 リッター〇〇kmと記載される「カタログ燃費」を良く見せるため、自動車メーカーがあの手この手を使ってきた。語り草は1000ccカーでN社がやった燃費対策車。宣伝文句に高燃費を謳うため、馬力は出ないが燃費だけいいエンジンを積んだ車種を特別に作った。業界で問題になり運輸省(当時)の行政指導で燃費対策車は禁止された。

 三菱で偽装が発覚した軽自動車は5度も目標燃費が社内で引き上げられた。ダイハツ「ムーブ」やスズキ「ワゴンR」に見劣りする燃費では市場に出せない、という判断だ。

 三菱重工の自動車部が独立した同社は、スズキやダイハツに負けるはずはないという自負心に満ちた経営者が「最高の燃費」を技術者に求めた。

 昨年11月、毎日新聞に「三菱自新SUVの開発遅れ」(11月12日)という小さな記事が載った。軽量化が予定通り進まず2016年に予定した発売が延期された、と指摘し、車両重量が目標に達していないことを役員らに報告しなかった担当部長2人を11月1日付で諭旨退職処分したことを報じた。

 すでに軽自動車の燃費偽装が社内で調査されていたころである。主力車種であるSUV(スポーツタイプの多目的車)でも問題が発生していたということだ。車両重量は燃費を左右する重要な要素。軽量化が開発目標に達していないことを担当者は隠し、そのことで新車開発が遅れ、責任を取らされた。諭旨退職とは「クビだが退職金は出る」という処分である。

 三菱自動車の広報は、処分があったことは認めたが、根拠となる事実は「社内人事なので開示できない」と拒んだ。ユーザーや投資家にとって商品や経営を判断する大事な事実だが「お答えできない」の一点張りだ。