検診でなんとなく受けている「眼底検査」。実は血管の障害を外からじかに確かめられる唯一の検査法だ。

 眼底は文字通り「眼の底」。透明な組織である角膜の窓から光を当て透かして見ると、底を走る網膜血管や視神系の末端がはっきり見える。網膜血管が詰まっていたり微細な出血がある場合は、糖尿病や動脈硬化症、腎臓疾患など身体の病気が疑われる。

 先日、秋田、大阪など5地域で1960年代から続く日本の循環器疾患の疫学研究「CIRCS研究」から、眼底出血と糖尿病との関連について、新しい知見が報告された。

 今回の報告は、2001~11年に地域の住民検診と大阪の職場検診で眼底検査を受けた30~78歳の男女、約1万2000人を追跡した結果。追跡期間の中央値は4.6年だった。

 調査ではまず、開始時点に糖尿病治療薬を服用していたか否かで2グループに分け、さらに過去1~2カ月間の血糖状態を反映する「ヘモグロビンA1c(HbA1c)」値で5グループに分類して追跡している。ちなみに、HbA1c値が6.5%以上なら糖尿病の疑いが極めて濃い。

 追跡期間中、509人に眼底出血が見つかり、そのうちの96人は糖尿病が原因の網膜症だった。

 糖尿病網膜症は、網膜の血管が詰まり、ジワジワ出血する病気。出血による酸欠状態を補うため脆い異常な血管が増殖し、さらに出血が酷くなり網膜が破壊される。

 調査時点でHbA1c値が糖尿病と診断される値にもかかわらず、治療薬を服用していなかった人は、HbA1c値が5.8%未満と良好な人に比べ、HbA1c値が上昇するにつれて眼底出血リスクが有意に上昇した。

 一方、治療薬を飲んでいた人の出血リスクも増えたが、その幅は小さかった。

 一昔前まで糖尿病網膜症は日本人の失明原因第1位だった。治療法が進化した現在は緑内障にその座を譲っている。ただし、それも早期発見・治療があってのこと。検診結果が戻ったら、眼底検査の所見と血糖値をよく確認しよう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)