景気の腰を折ってしまった
1997年に実施した消費増税

 6月1日、安倍首相は、2017年4月に予定されていた消費税率の再引き上げを2年半延期すると表明した。わが国にとって財政の再建は喫緊の課題だが、それ以上に“足踏み状態”にある景気を支えることが優先されると考えた結果だろう。

 今回の決定に関しては、経済専門家の間でも様々な見解があるものの、足元の国内外の経済状況を俯瞰した場合、それなりの合理性のある決断だったといえる。国内経済の最大の問題は、実質ベースでの所得が増えていないことだ。それが消費の伸び悩みにつながり、国内経済の活力が盛り上がらない一因になっている。それに加えて足元の為替市場では円が強含みの傾向が見られる。今後、それが企業業績の下振れリスクを高める懸念がある。

 一方、海外に目を転じると、中国や新興国の景気減速が続いている。中国経済が減速する中で、世界経済を支えてきた米国の景気も永久に上昇を続けることはできない。欧州経済の低迷や英国のEUからの離脱を巡る動きもあり、海外に起因するリスクは無視できない。こうしたリスクが顕在化すると、世界経済がリーマンショック以上の混乱に陥る可能性もある。

 そうした状況を考えると、わが国はあわてて増税を進め、景気の腰を折るリスクを避けることが得策だろう。過去の例を見ても、1997年に実施された財政構造改革法による消費増税は、景気を圧迫し、長期低迷の一因となったことは記憶に新しい。

 財政再建は不可避だが、景気の腰を折ってしまっては元も子もない。今は実効性のある“成長戦略”を推進し、わが国の潜在成長力を引き上げ、増税に耐えられる経済の体力を備えるべきと考える。

足踏み状態にあるわが国の景気
消費増税には耐えられない

 繰り返しとなるが、首相が2017年4月の消費増税の延期を決めたことは、それなりに説得力のある判断といえる。わが国の景気は、現在、“足踏み状態”にある。足踏み状態とは、基調として景気は緩やかな回復を続けているが、成長率、賃金動向、企業業績などの下振れが懸念され、経済の前向きな動きが徐々に弱まっている状況と考えればよい。

 足踏み状態の景気を示す端的な指標がGDP(国内総生産)だ。1~3月の実質GDP成長率は年率換算ベースで+1.7%だった。しかし、この数値は“うるう年”の効果によって押し上げられている。2015年1~3月期の実質GDP成長率が5.4%だったことを踏まえれば、成長の勢いは明らかに低下している。