日本の鉄鋼業界で、「中国の生産能力過剰を批判するだけでは反発を招き、かえって削減が遅れかねない」(林田英治・JFEホールディングス社長)という懸念が高まっている。

中国の鉄鋼生産過剰批判で日本が慎重になる理由中国の昨年の粗鋼生産量は8.1億t。輸出量は日本の粗鋼生産量に匹敵する Photo:AP/アフロ

 5月の伊勢志摩サミットで、参加国は中国の鉄鋼生産能力削減の遅れを指摘し、是正を求めた。中国の鋼材輸出量は4年間で倍増して1億トンを超え、鋼材価格の低下を招いていることが背景にある。

 9月の経済協力開発機構(OECD)の会合でも鋼材のダンピング輸出への対応が議論される予定。米国は大統領選挙が近づくにつれ、さらに強硬になりそうだ。

 だが、実はこの問題で、日本と欧米の対中姿勢には温度差がある。

 日本は中国に進出した日系自動車メーカーの工場向けに鋼材を出荷しており、輸出超過だ。このため、外交の舞台で中国を批判し、改革を迫ることには慎重だった。一方、欧米は中国製鋼材の輸入急増で数千人の雇用が失われ、政治問題化している。国際会議のたびに中国を強く批判するのは国内向けのパフォーマンスの要素が強い。

 こうした違いがあるために、日本は伊勢志摩サミットで、知恵を絞らなければならなかった。