9月7日に、尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁巡視船に衝突した事件の第一報以来、私はことのなりゆきを固唾を飲んで見守ってきた。

 第一幕は、日本政府の強い姿勢。

 前原誠司国交相(当時)は、海上保安庁に船長の逮捕を直接指示。8日に船長は公務執行妨害で逮捕される。その日、菅直人首相は「わが国の法律に基づいて、厳正に対応していく」と言明した。首相は外務省幹部らに、「こちらが折れる必要はない」と檄を飛ばしたという。

 第二幕は中国側の猛反発と対抗措置。

 政府間交流だけでなく、民間の観光にまで及んで対抗措置がエスカレート。ついには、レアアースの禁輸による貿易制裁に踏み込んだ。さらに、23日の邦人4人の拘束も無関係と受け取るわけにはいかなかった。

 そして第三幕の船長の釈放に至る。

 首相官邸は、これを「検察の判断」として関与を否定するが、那覇地検の記者会見の「わが国国民への影響と今後の日中関係を考慮する」との発言には、政府・官邸の意向が強く滲んでいる。

「船長の釈放」で問題は大揺れ
中国の威嚇が強まる結果に…

 結果として尖閣諸島をめぐる環境は大きく変わってしまった。

(1)温家宝中国首相の国連での発言もあり、国際社会に「日中間に領土問題あり」との誤解が広がった。

(2)尖閣諸島の日本領海内での中国側の漁業が放置される恐れが強まった。逆に日本による実効支配が風前の灯となったのだ。