三井物産株式会社

 

景気の浮沈に関係なく、一定ボリュームの新卒採用と中途採用を維持してきた三井物産。長い歴史を紡いできた同社の、独自の人材観とは?
金融界から農業ビジネスへと転身して国際的な成果を上げている工藤仁氏の体験を基に検証してみよう。

“スキル”ではなく“人物”を評価する姿勢に共感

 工藤仁氏は、都銀で10年を超える経験を得ていた。MBAや米国CPA取得で得た専門知識と、国際金融の現場で生かす実力を持ち合わせていながらも、転職を志した。興味を抱いたのはファイナンスと直接つながりのない領域。農業関連のビジネスだった。どんな心境がそこにあったのか? 

Chemical Business Development
ゼネラルマネージャー
工藤 仁氏
くどう・ひとし◎大学卒業後、大手都銀に入行。営業職を経験後、渡米留学。MBA取得後は主に国際審査などグローバルな部門に従事。2003年、三井物産の農業ビジネス部門の求人に応募して入社。以後、農業に軸足を置きつつ、ケミカル領域へも視野を広げ、現在はニューヨークを拠点に事業育成支援などを展開している。

「銀行では、ファイナンスの専門性を生かせる仕事をしていましたから、満足感はありました。しかし、そもそも転職を考えたのは『今までとは違う新しいこと』にチャレンジしたかったからです。REITが日本でも本格化する時期でしたから不動産関連企業にも足を向けましたし、ファンド会社にも興味を持ちました。海外で仕事をすることに強い関心があり、商社への応募も考えたわけですが、そうした中で三井物産との出会いがあったのです」

 金融関連の能力が、自分の強みだという自覚はあったが、転職活動を始めると、工藤氏の思惑以上に多くの企業がそうしたスキル面ばかりに注目した。

 「ファイナンスのスキルは、頑張っている人たちを手助けする上で有効です。しかし、私がしたかったのは自分でビジネスを作っていく仕事。スキルばかりが注目され、即戦力として期待されることは本意ではなかったのです。ところが三井物産だけは違いました。人をスペックで計ろうとしない。そういう文化が根づいていることが、面接などでひしひしと伝わってきました。農業ビジネスの経験のない私が『新しいことをしたい』と話すと、スキルではなく人材としての総合力で判断し、採用してくれた。ここでならばやりたかった仕事ができると確信しました」

  伝統あるブランドイメージの三井物産に、30歳を超えた未経験者として入ることに不安はなかったのか?

「企業名が大きいこともあり、気後れは感じましたが、驚くほど当たり前に、周囲の人がサポートしてくれました。私と似通ったキャリアの仲間もいた。そのうえ、農業ビジネスの業界自体が『新しさ』を求めていたため、いつの間にか、気後れは消えていました」

  そう語る工藤氏は、「あらためて考えれば、当然のことだった」と笑う。

「商社マンは、世界中に出向き、常に“新しい人”と出会い、一緒に仕事を動かす立場。人ときちんと向き合うカルチャーがあるからこそ、三井物産の歴史も築かれたのだと思います」