スイスのカネ持ちたちにフェラーリやポルシェなどの高級スポーツカーが売れなくなるかもしれない――。欧州の自動車業界では、スイスで提出されたある法案が注目されている。

 その法案とは、8月下旬にスイスの緑の党が提出したもので、1キロメートル走行当たりの二酸化炭素排出量が250グラム以上のクルマの使用を禁止するという内容だ。

  スイスは直接民主主義であり、法案提出に当たってはすでに、国民の審議(国民投票)に必要な10万人以上の署名を集めている。

 250グラム以上といえば、「現地走行モードでガソリン燃費が1リットル当たり10キロメートル以下。V6の3リットル以上の大型車がほぼ対象となる」(業界関係者)

 当然、フェラーリやポルシェ、アストンマーチンなどの高級スポーツカー、ハマーのような大型SUVなども該当する。

 明らかに大型車を狙い撃ちした法案である。当然、こうしたクルマに乗れるのは、いわゆる富裕層と呼ばれる人びとだ。

 スイスはモナコなどに次いで富裕層の比率が高いことで知られる。「大型車の購入を禁止するのは、いくらなんでも無謀」という声がある。

 「政治的発言力の強い富裕層の意見を押しのけ、本当に法案が成立するのか」というのも注目される理由だ。

 とはいえ、「じつは環境問題よりも階級闘争的な意味合いが強い。むしろ、大衆が富裕層への反感のため、こぞって投票する可能性が高い」(欧州の業界関係者)という指摘もあり、結果は未知数だ。

 ただ、仮にこの法案が成立しても、隣国のフランスなど外国で登録し、引き続き大型車に乗り続けるという“抜け道”も考えられ、早くも法案の有名無実化を指摘する声がある。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 山本猛嗣)