ある電機メーカー幹部は最近、中国の企業幹部と会う出張で、“日本土産”として「漢方薬」を持参するという。処方薬は無理なので、薬局で買える「葛根湯」などの医薬品を買うわけだが、それでも「日本製は品質が高く、よく効く」と喜ばれるのだとか。

 日本の漢方薬は中国由来ながら国内で独自に発展した、いわば“別物”だ。現在、1100億円強ある国内の市場規模は「2015年には倍増する」(森田哲明・野村総合研究所副主任コンサルタント)といわれ、成長軌道にある。“本家”中国人にも喜ばれるとなれば、将来的に海外での成長も期待できる。

 ただし原料となる生薬を確保できることが条件だ。生薬の国内自給率はわずか1割程度。残りの多くを中国に依存している。

 元来、生薬は野生のものが多く価格変動が大きい。ほぼ100%を中国から輸入している甘草(カンゾウ)など複数の品目では乱獲防止の狙いから、2000年代以降に規制が強化され、採取・輸出量の限度や輸出時の最低価格などが定められたり、出荷停止になったものもある。元高や人件費の上昇にも影響され、日本における生薬の調達コストは、02年比で07年には1.5倍に大幅上昇している。

 原料の安定調達に向けた取り組みは、すでに始まっている。医薬基盤研究所のほか、三菱樹脂が生薬など薬用植物の人工栽培に向け、研究を進める。だが、相手が野生の植物だけにコトも複雑だ。生産地が変わっても成分含量などが既存品と同等か、基準や審査法なども確立されねばならない。

 レアアース(希土類)の争奪戦ほど表立ってはいないが、生薬という生物資源でも獲得競争は熱を帯び始めた。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)

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