大臣交代で手のひら返し<br />金融庁の検査方針変更の波紋政治に振り回されている感のある金融行政だが、業界内では金融庁が軌道修正に乗り出したと見ている
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 金融庁の豹変ぶりに金融機関が戦々恐々としている。

 今年9月上旬、関東財務局の幹部は、ある会合で信用金庫の理事長たちを前にこう言い放った。

「以前とは検査での見方がまったく変わっているので」──。

 金融庁の委任を受けている彼らの言葉は、当局からのお達しそのもの。その場にいた信金関係者たちはわが耳を疑った。

 というのも、ついこのあいだ亀井静香前金融担当大臣が言う「金融行政のコペルニクス的大転換」が起きたばかりだったからだ。

 その象徴が亀井氏の肝煎りで、昨年の12月に施行された中小企業金融円滑化法、通称“モラトリアム法”だ。それに伴い、金融庁が金融機関を対象に実施する検査の方針が、「なぜこんなところに貸している、から、なぜ貸さない」(大手地方銀行幹部)へと大きく変わったところだった。

 貸出先から返済のリスケジュール(リスケ)要請があった場合、金融機関に柔軟な対応を求めたこの法律。リスケの際に企業が金融機関に提出する経営改善計画も、最長1年間の猶予が許された。

 これにより金融機関は、リスケした債権の一部を正常債権として扱うことになった。そのため本来積み増すべき貸倒引当金が必要なくなり、金融機関の不良債権比率も低下。見た目の決算は改善し、財務体質が弱い中小の金融機関はひと息ついていたのだ。

 とはいえ返済に苦しんでいた企業の実態はなにも変わっていない。法施行の1年後に当たる今年12月以降、「再建できない企業が続出し、反動で一気に不良債権が顕在化しないか心配している」(地方財務支局幹部)という声が聞かれていた。

 そのため立案者の亀井氏から、自見庄三郎氏に金融担当大臣が変わったタイミングで、「当局が軌道修正に舵を切ったのだろう」(メガバンク幹部)という見方が大勢だ。今年8月に公表した新しい検査方針に、金融円滑化の役割を果たせるだけの「十分な財務基盤と強固で包括的なリスク管理体制が整備されているか検証」することが明記されているのも、その表れと見られている。

 つまり、金融庁が大きく方針転換をした背景にあるのは皮肉にも、中小企業金融円滑化法の事後処理だったというわけだ。

 にもかかわらず、いまだ中小企業への積極的な貸し出しに対応すべしという方針は撤回されていない。これには金融機関も「両立しろというのは土台無理な話」(信金関係者)と、さじを投げている。

 金融庁の朝令暮改ぶりに振り回される金融機関。だがリスケ債権の扱い変更に乗じて、恩恵を受けていたのも事実だ。リスケをした企業の再建に本気で取り組まなければ、不良債権爆弾が一気に炸裂し、自らの存亡の危機に瀕する可能性も高まる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

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