中南米
2017年3月6日 風間真治

中南米で学んだ「決めつけない」営業術

逆転の発想で顧客の心をつかみ、自分もリラックス

 次の作戦は、相手をよく観察して「さほど話さなくても快適にその時間を過ごす方法」を探ることでした。私自身、当時はスペイン語ができなかったので、会話が少なくてすむのに超したことはありません。まずは、自分がスペイン語ができないという事実を認める作業、そして、認めた後は何かでカバーしないと厳しい競争の中で生き残れませんので、補う方法を見つけることに全力で集中していました。

 そんなある日、本社から来ていたマネージャーとAさんを訪問した際に、やはりそのマネージャーが沈黙に耐えられず、「この空気が重いのきついな?、何か時間つぶせるものとかないかなぁ?」と聞いてきました。たまたま車の中に積んでいたカタログを思い出し、Aさんに渡したところ喜んで見み始めました。「今、あきらかに態度が変化したな」と思い、その後訪問する時はありったけの雑誌などを持ち込んで見せることにしました。

 この効果は抜群で、訪問するたびに、嬉しそうに雑誌やカタログを目の色を変えて見ていました。ドミニカの田舎に住んでいて、インターネットも使えないようなタイプですので(当時はスマホもない時代)、そういう情報に触れる機会がなかったのだと思います。

 相手が雑誌を読んでいる間私は何をしているかというと、出されたコーヒーを飲みながら、自分が読みたい本を持ち込んで読書。2時間ぐらいしてある程度時間が来たら、そのまま帰る――。沈黙の時間がリラックスタイムに激変しました。

 もちろんその間に相手がカタログを見ながら、「これ面白いから調べて」と言われたら、その場でメモしたり、向こうが思い出したように、「そういえばこういう商品をまたオーダーしたい」と言いだしたらまたメモする。向こうが何かを話したいとなって口を開いてきたときだけ、「うんうん、なるほど、そうですね」とその時は話し相手になる……。

 沈黙を楽しめるというのは、会話の内容や立場など関係なしに相手の存在に対してそのままリスペクトできている証拠とも言えますので、ある意味では人間関係でもっとも上質的かつ心地良いつながりだと気づきました。「沈黙は気まずい」という「決めつけ」を止めることによって生まれたリスペクト方法です。

 本社の先輩に電話をして、こうした自分の考えを説明すると、先輩は面白がって協力してくれ、「社長決済をとったから」とその週からドンドン雑誌やカタログなどの「救援物資」を送ってくれるようになりました。

 その後は、Aさんに親しみを込めたあだ名をつけて上司や先輩たちと盛り上がったり、Aさんの強面で愛想の異常に悪い態度を先輩たちといじれるような余裕も出てきて、いつしか社内的に避けられがちだったAさんはアイドルのような扱いになっていきました。そうしたこちらの態度の変化と比例するように、Aさんからの注文が爆発的に増えていきました。

 最終的には訪問して面談、読書タイムの後には自宅に招かれて、昼食などもよく食べさせてくれるようになりました。昼食後は、眠くなると彼の寝室のベッドを貸してくれ、昼寝をしてぐっすりと寝た後で首都のサント・ドミンゴに帰るという仲にまでなりました。

 営業の基本は、「決めつけてかからない」という仕事以前の人間関係の基本とも言えるかもしれません。千差万別の客の中で常に相手を観察して、ケースバイケースで柔軟に対応することが重要だと気づかされる貴重な体験でした。

裁判所の前で立ち話をしていた人たち。気軽に撮影に応じてくれた【撮影/風間真治】

(文・撮影/風間真治)

著者紹介:風間真治(かざま・しんじ)
商社の海外営業、中南米のドミニカ共和国駐在を経て独立。現在はカリブ海に浮かぶドミニカ共和国に住みながら、主に中南米諸国でこれから経済が成長していくような国々を頻繁に回り、未知なる客先を訪ね歩いては様々な新規事業の開拓に取り組む日々。中南米ではいくつかの国に会社を作り、貿易事業、港湾の通関業、不動産事業、インターネット事業、中古車販売業などを手がける。