橘玲の世界投資見聞録
2017年3月2日 橘玲

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[橘玲の世界投資見聞録]

ブエノスアイレスの治安は言われているほど悪くはない

 中南米旅行で必ず訊かれるのが「治安は大丈夫ですか」という質問だ。そのなかでもブエノスアイレスは、ペルーやボリビアのひとたちからも「あそこは治安が悪い」といわれるほど評判は芳しくない。

 ただ実際に訪れてみると、夜でも女性が1人で歩いているほどで、危惧していたようなことはまったくなかった。

 ブエノスアイレスの街は、幅110メートルの世界でもっとも広い「7月9日大通り」が南北に走り、ラプラタ川の河口に面した東側のレティーロ地区が繁華街だ。歩行者天国のフロリダ通りには土産物店が並び、その周辺にホテルやカフェが集まっているが、このあたりは昼はもちろん夜歩いてもまったく問題ない。

幅110メートルの「7月9日大通り」                 (Photo:©Alt Invest Com) 

 

 レティーロの北にはブエノスアイレス最大のターミナル駅があり、郊外からの通勤客などでいつも賑わっている。ただし、駅から河口に向かうあたりはビジャ(Villa)と呼ばれる貧困地区があり、近くの広場には酔いつぶれて昏倒している姿が目立つ。とはいえほとんどがふつうのひとたちで、治安が悪いといっても、女性がハンドバッグを前に抱えて歩いているくらいだ(携帯やカメラを見えるようにしていると注意される)。

レティーロ駅の豪華な内装                   (Photo:©Alt Invest Com) 
駅に近い公園で寝ている(倒れている?)ひとたち      (Photo:©Alt Invest Com) 


 

 レティーロの南側にはミュージカル『エビータ』で知られる大統領官邸と5月広場、メトロポリタン大聖堂などの観光名所がある。ここは旅行者を狙った引ったくりが多いことで悪名高かったが、私が訪れたときはパナマ文書問題で反マクリの市民団体が広場を占拠していて(幸いなことに)まったく不安はなかった。

5月広場は市民団体に占拠されていた              (Photo:©Alt Invest Com) 

 

 7月9日大通りを渡った西側には世界三大オペラ座のひとつコロン劇場があり、その裏手は洒落たカフェやレストランがある住宅街だ。「世界で二番目に美しい書店」といわれるアテネ書店はグランスプレンディッド劇場を改築した店で、大通りから歩いて10分ほどのレコレータ地区にあるが、日が落ちてからもカップルや若い女性のグループなど地元のひとたちがふつうに歩いていた。

劇場を改築した「世界で二番目に美しい書店」。店頭ではハリーポッター・シリーズの新刊のイベントが行なわれていた                       (Photo:©Alt Invest Com) 

 

 5月広場からさらに南に下ると少しずつ雰囲気が変わり、教会の入口に物乞いが目立つようになる。高速道路を超えると下町ボカで、人気サッカーチーム、ボカ・ジュニアーズの本拠地として知られるが、最近では赤、青、黄、緑などカラフルにペインティングされた家が並ぶ“タンゴ発祥の地”カニミート通りの方が有名になった。ただ、この近くには大きなビジャ(スラム街)があるので、バスかタクシーで行くようにいわれた。

 ブエノスアイレスを訪れたのは今回がはじめてで、経済危機のときとは雰囲気がちがうのかもしれないが、少なくとも繁華街や観光地では治安が悪いという感じはまったくなかった。もっとも貧困問題を扱うNPO団体によれば、ブエノスアイレスの住人の1割はビジャのスラムに暮らしており、生活保護などの社会福祉制度がほとんど整備されていないため、露天商などインフォーマルビジネスか、違法な商売でしか生きていく術のない生活を余儀なくされているという。

歩行者天国フロリダ通りの露天商             (Photo:©Alt Invest Com)