橘玲の日々刻々
2017年7月18日 橘玲

元秘書への暴言議員の言動は、日本的組織の縮図
[橘玲の日々刻々]

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 自民党の女性国会議員が10歳以上年上の政策秘書に浴びせた罵詈雑言が波紋を広げています。

 大手広告代理店の新入社員の過労自殺を受けて、安倍政権は長時間労働など日本的な働き方の改革を掲げており、当の女性国会議員はその先頭に立つ厚生労働省の出身ですが、控えめにいってもこれはパワハラ以外のなにものでもありません。自民党の同僚議員は「あんな男の代議士はいっぱいいる」と述べましたが、これが事実であれば、民間企業にあれこれいう前に、政治家は自分たちがいかに「異常」であるかを認識すべきでしょう。

 いったいなぜ、こんな常軌を逸したことが起きるのでしょうか。これが「一人のおかしな女がやったこと」ですませられないのは、同様の陰湿なハラスメントが日本社会のあちこちで起きているからです。

 政治家秘書の仕事は自営業者の従業員と同じですが、特徴的なのは、次の選挙で落選すると雇用主である政治家は(おうおうにして)廃業し、秘書は問答無用で解雇されてしまうことです。非正規雇用の労働者でも契約期間が決まっていますが、選挙はいつあるかわからないのですから、これはより不安定な働き方です。当然のことながら、秘書はなんとかして生活を安定させたいと思うでしょう。

 まっさきに思いつくのは、ほぼ確実に当選できる政治家の事務所に就職することです。大物政治家であれば20年や30年は政治活動をつづけますから、その間の収入が保証されると同時に、政治の世界のさまざまなしきたりを知悉することで転職も有利になります。しかしこれは、優良企業に運よく就職できたのと同じですから、なかなか空きのでない狭き門です。

 それに対して新人議員の事務所には、政治の世界に興味がある若者などがやってきて、ベンチャー企業のような雰囲気になることがあります。そんな環境で自分も秘書も成長し、事務所から地方選挙や首長選挙の当選者を出すようになると、与野党を問わず政界で一目置かれるようになります。政治関係者はものすごく狭い世界に棲息しているので、評判はすぐに伝わるのです。

 政治家の秘書にとって最悪なのは、次の選挙の当選もおぼつかず、無理難題をおしつけ威張り散らすだけの「先生」の下につくことです。政治家の側にも言い分があるでしょうが、こうした境遇は“災難”として秘書仲間に広がっていくので、スタッフがどんどん辞めていくと、次に入ってくるのはそれ以下の人材ばかり、という悪循環にはまりこんでしまいます。

 国会議員は強大な国家権力にアクセスする特権をもっており、おまけに高学歴でプライドばかり高いと、自分に基本的な能力や人間力が欠落していることを認められません。自分がいっさい悪くないのなら、原因はすべて外部にあるはずです。こうしてとめどもなく被害妄想がふくらみ異様な言動を引き起こすのですが、じつはこれは政界だけでなく、日本の組織によくみられる光景です。

 今回の出来事が世間の関心を集めたのは、エリートの“元お嬢さま”の裏の顔が暴かれたからでしょうが、それと同時に、似たような“被害妄想ハラスメント”を多くのひとがどこかで目にしたことがあるからではないでしょうか。

 

『週刊プレイボーイ』2017年7月10日発売号に掲載

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橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)など。ダイヤモンド社から新刊『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』が発売中。

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