橘玲の世界投資見聞録
2018年4月26日 橘玲

最近日本でよく見かけるネパール人労働者たちは
GDP世界172位の貧困国から来ている

壊れた橋を直さず、川底を走るクルマやバイク

 ポカラはネパール最大の観光地で、ヒマラヤ・アンナプルナ山系の白く輝く山並みと美しい湖とが織りなす風光明媚な街として知られている。アンナプルナへのトレッキングの拠点としても有名だ。

 ポカラの初日は、ヒマラヤを眺めることができる山間部のホテルに泊まることにした。ポカラ空港でタクシーの運転手と交渉したら2000ルピー(約2000円)といわれ、ずいぶん高いなあと思ったらそれもそのはずで、4WDでなければ走れないような悪路を普通車で上っていく。いちばん驚いたのは道路が川にぶつかって、車がそのまま水のなかに入っていったことだ。

 それが下の写真で、オートバイが細い川を渡ろうとしていることがわかるだろう。しかしなぜ、こんな不便なことになっているのだろう。

オートバイで川を渡ろうとする     (Photo:ⒸAlt Invest Com)

 

 その理由は、付近を散歩していてわかった。ここにはもともとちゃんとした橋があったのだが、それが壊れてしまった。それで仕方なく、川に下りていく道をつくったのだ。

 しかしそれでも謎は残る。どう見ても、橋を修理するのがそれほど大変とは思えない。だったらなぜ、さっさとやらないのだろうか。

車が通行できる橋は壊れていた     (Photo:ⒸAlt Invest Com)

 

 ホテルにこの村出身のスタッフがいたので訊いてみると、「ネパールはみんなのんびりしてるからねえ」という返事だった。「でも、雨季が始まると川は渡れなくなるから、それまでにはなんとかなってるよ」

 ポカラから1泊2日でトレッキングに行ったときも、同じような光景に遭遇した。下の写真ではバスや車がダートロードを走っているように見えるが、じつがここは道路ではなく川底だ。本来の道路は川の左手を走っているが、そこが工事中なので乾季のあいだは川底を交通路に使っているのだ。

水のない川底が道路に早変わり      (Photo:ⒸAlt Invest Com)

 

日本からの仕送りで建てた家「ジャパンハウス」

 ポカラで最初に泊まった山のホテルは、電気は太陽光発電、レストランは自分の農場で育てた有機農法の野菜、朝はしぼりたての水牛のミルクが届けられるというネイチャー指向で、宿泊者のほとんどは欧米からの旅行者だ。そんなこともあって、ホテルの近くを散歩していると、村人から英語で話しかけられる。

水牛がのんびりと草を食むポカラの山間部    (Photo:ⒸAlt Invest Com)

 

 彼らの話では、この村からはたくさんの若者が日本に出稼ぎに行っている。村にはところどころ、ほかよりも立派な家があり、それは「ジャパンハウス」と呼ばれている。日本からの仕送りで建てた家だという。

 ネパールからの出稼ぎ労働者というと、東電OL殺人事件で逮捕され、15年間の拘留ののちに無罪が確定したゴビンダさんが有名だが、2011年の東日本大震災で中国や韓国の労働者が帰国したあとはネパールやベトナムからの労働者が急増している。彼らは留学を名目に来日し、働きながら日本語を学んでいることになっている。日本に来るために100万円以上の借金をし、それを返済しつつ故郷に仕送りして立派な家まで建てているのだ。

 来日費用の100万円は、ブローカーと専門学校に支払われる。アジアでもっとも貧しい国に生まれたネパールの若者を、世界でもっともゆたかな国のひとつである日本で専門学校・日本語学校を経営したり、そこから給与を受け取っている「教育者」が搾取している。これは日本の教育業界の恥部だが、ふだんは立派なことをいっている教育関係者はこの理不尽な現実に見て見ぬ振りを決め込んでいる。

日本で働く子どもたちの仕送りで建てられた立派な「ジャパンハウス」 (Photo:ⒸAlt Invest Com)