橘玲の日々刻々
2018年6月19日 橘玲

ゼロ歳児の育児は家庭で行った方がよい、いくつかの理由
[橘玲の日々刻々]

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 安倍首相の「側近」とされる政治家が、党員向けの会合で「『パパとママ、どっちが好きか』と聞けば、どう考えたって『ママがいいに決まっている』」と述べました。「生後3~4カ月で、『赤の他人』様に預けられることが本当に幸せなのだろうか」として、「待機児童ゼロ」を目指す政府方針について、「慌てずに0歳から保育圏に行かなくても、1歳や2歳から保育園に行けるスキームをつくっていくことが大事なのではないか」と発言したとのことです。

 日本は「先進国の皮をかぶった身分制社会」なので、夫は会社に滅私奉公し、妻は子育てを「専業」にする性役割分業の抑圧がつよく、それが日本人の幸福度を大きく毀損していることは間違いありません。私自身も子どもをゼロ歳から保育園に預けていたので、「こんなに小さいときからかわいそう」という周囲の“善意”がどれほど残酷なものであるかも知っています。そんな日本社会の既得権層を代表する政治家(オヤジ)の、あいもかわらぬ無理解に絶望するひとは多いでしょう。

 しかしここは冷静になって待機児童問題の対策を考えると、意外なことに、この「オヤジ」の発言はそれほど間違っているわけではありません。

「男女平等」が徹底された北欧でも、出産後しばらくは家で子育てをし、保育施設に預けて共働きするのは1歳児からというのがふつうです。しかしこれは、「ママがいいに決まっている」からではありません。ゼロ歳児保育のコストがきわめて高いため、育休期間にそれまでの給与の10割を支給するなどして、家庭に保育を代替させているのです。

 こうした事情は日本も同じで、もっとも「手厚い」保育が行なわれる認可保育所の場合、ゼロ歳を預かる費用は東京都の平均で月額40万円、年480万円です。それに対して平均的な保育料は月額2万円強で、差額はすべて国や自治体が補填しています。「子どもを産んだ女性に一律毎月30万円払ったほうがマシ」という異常なことになっているのです。

 それにもかかわらず、待機児童は高コストのゼロ歳児に集中しています。しかしこれは日本の母親の就労意欲が高いからではなく、ゼロ歳で「保活」に失敗すると1歳児の選考で不利に扱われるからです。

 こうして「保育園落ちた、日本死ね」になるわけですが、1人あたり月額40万円もの税を投入する施設を自治体がおいそれとつくれるわけはありません。こうして待機児童対策は口先だけのものとなり、親の不信感はますます募っていくことになります。

 こんな理不尽な事態をなくすにはどうすればいいのでしょうか?

 それは北欧のように、高コストのゼロ歳児の育児を家庭で行なうよう政策的に誘導するとともに、そこで浮いた予算と人手を使って、「保活」に必死にならなくても1歳児から確実に保育園に入れるようにすることです。それと同時に、利権のかたまりである認可保育園の改革も必要でしょう。

 政治は結果責任です。前提が間違っているとしても、そこから出てくる政策が現状をすこしでもよくするのなら、多少の忍耐も必要かもしれません。

『週刊プレイボーイ』2018年6月11日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は、『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』(朝日新書) 。

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