橘玲の日々刻々
2019年6月6日 橘玲

もはや手遅れだが、日本が若年失業率対策をしてこなかったことが
40代、50代のひきこもりの大量発生や「8050問題」を引き起こしている
【橘玲の日々刻々】

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 先進国のなかでもヨーロッパの一部の国は若年失業率がきわめて高い。15~24歳の失業率ではスペイン53.2%、イタリア35.2%、フランス23.8%など驚くような数字が並んでいる(2012年)。

 若者の4~2人に1人が職のない状態で、どうやって社会が成り立っているのか、私はずっと不思議だった。読者のなかにも、同じ疑問を抱いているひとがいるだろう。

 これについては経済学者の白川一郎氏が、『日本のニート・世界のフリーター』(中公新書ラクレ)でこたえている。すこしデータが古いが論旨は現在でもそのままなので、この謎をどのように考えればいいかを紹介しよう。

「新卒一括採用」の日本よりオランダのほうが若年失業率が低い

 2004年は日本で「ニート」が流行語になった年だが、表①はこの年の欧米諸国と日本の失業率だ。


 これを見てもフランス、スペイン、イタリアの若年失業率は際立って高い。それに対して日本は、「新卒一括採用によって若者を効率的に労働市場に送り出しているから失業率がきわめて低い」というのが常識になっている。

 しかしこれは、「神話」とまではいえないとしても、一般に信じられているよりその恩恵は大きなものではない。

 2004年当時、15~24歳の失業率はアメリカ11.8%、ドイツ11.7%、イギリス10,9%と、日本(9.5%)とそれほど変わらなかった。オランダにいたっては8.0%と日本より低くなっている。もちろん、これらの国に新卒一括採用はない。

 若年失業率についても、基本的な「誤解」があると白川氏は指摘する。

 失業率というのは、「就業が可能で、働く意欲があり、実際に仕事を探しているひとたち」の割合のことだ。そうなると、身体的・精神的な障がいなどで就業が不可能だったり、専業主婦のように働く必要がなかったり、求職活動を断念してしまったひとはここから除かれる。

 ここまではよく知られているだろうが、だとしたら15~24歳の若者のなかで「働く必要がない」のは誰だろうか。それはいうまでもなく「学生」だ。

 若年失業率とは、若者のなかから学生を除いた人数を分母にして、職を探している者の割合を示した数字なのだ。

 国によって大学進学率が異なれば、大学生の少ない国では就業可能人口が多く、大学生が多いと就業可能な人数は少なくなる。そしてこれが、若年失業率に影響する。

 どういうことなのか具体的に示そう。

 A国とB国にそれぞれ10人の若者がいたとする。どちらも、そのうち1人が失業していた。当然のことながら、若者人口(10人)に占める失業者(1人)の割合はどちらの国も10%だ。

 ところが、両国で大学生の数がちがうとどうなるだろうか。

 A国では大学生が2人、B国では8人としよう。すると、A国では「働く意欲のある若者」は8人で、そのうち1人が失業しているのだから、「失業率」は12.5%になる(1÷8=0.125)。それに対してB国では、「働く意欲のある若者」は2人で、そのうち1人が失業しているため、「失業率」は50%にもなるのだ(1÷2=0.5)。

 このかんたんな例からわかるように、仮に失業者の割合が同じでも、大学進学率がちがえば若年失業率は大きく異なってくる。それを表わしたのが表②だ。


 これは2002年時点でのヨーロッパ各国の若年(15~24歳)失業率と、その年齢層の全人口に占める失業者の割合を比較したものだ。

 若年失業率を見ると、オランダの5.2%からイタリアの27.2%まで5倍以上ものちがいがある。オランダでは若者の20人に1人しか失業していないのに、イタリアでは4人に1人以上が職にあぶれている。

 これだけを見ると、オランダの社会は安定しているのに、イタリア社会は大混乱に陥っているように感じられる。だが実際は、治安など社会の安定度にちがいはあるとしても、イタリア全土がカオスに陥っているようなことはなく、アムステルダムとミラノはどちらも旅行者が快適に過ごせる観光都市だ。

 この謎は、右の欄の「失業者の割合」を見れば解ける。ここでもオランダの3.9%からイタリアの9.7%までかなりの幅があるが、そのちがいは2倍強で、5倍以上もの開きがある若年失業率とはずいぶん印象が異なる。

「若者の3人か4人に1人が失業している」とされるイタリアやスペインでも、実際には、10人の若者のうち9人は学校に通っているか、働いている。これが、若年失業率が高くても予想外に社会が安定している理由だ。