橘玲の日々刻々
2020年2月10日 橘玲

映画『スター・ウォーズ』のシリーズ完結編の
ラストの描かれ方から考える
【橘玲の日々刻々】

 1977年にスタートした『スター・ウォーズ』シリーズが、42年の時を経て「スカイウォーカーの夜明け」で完結しました。

※この記事は映画のネタバレがあります。まだ映画をご覧になっていない方はご注意ください。

 1970年代のハリウッドは危機の時代を迎えていました。それまでドル箱として、インディアンが開拓者を襲い、騎兵隊が討伐する勧善懲悪の西部劇を大量につくってきたのに、開拓者(ヨーロッパ白人)こそがアメリカ原住民の土地を奪い、虐殺し、差別してきたではないかと批判されるようになったのです。

 その象徴が1970年公開の映画『ソルジャー・ブルー』で、コロラドで米軍が無抵抗のシャイアン族などを女子どももろとも無差別殺戮した「サンドクリークの虐殺」を描いて衝撃を与えました。これ以降、ハリウッドは西部劇をつくることができなくなります。

 それでもひとびとは、「善が悪を滅ぼす」楽観的で夢のある物語を求めていました。スター・ウォーズ(ジョージ・ルーカス)の大ヒットの秘密は、PC(ポリティカル・コレクトネス/政治的正しさ)によって封じられた勧善懲悪の大活劇を、舞台を宇宙に移すことによって復活させたことにあるのでしょう。

 その後、物語はダースベイダーとルーク・スカイウォーカーの親子の確執へと移っていきますが、強大な銀河帝国に対して同盟軍(共和国)がレジスタンスの戦いを挑むという構図は不変です。

『スター・ウォーズ』第一作が公開されたのは、第二次世界大戦が終わって30年ほどしか経っておらず、「悪の帝国」であるソ連が大量の原水爆を保有していた冷戦時代でした。だからこそ、「全体主義(ファシズム)vs自由民主政(リベラルデモクラシー)」という物語の枠組みを誰もが共有し、楽しむことができました。

 しかし、ベトナム戦争、湾岸戦争、とりわけ9.11同時多発テロによって始まったイラクとアフガニスタンへの侵攻によって、アメリカの「正義」は大きく失墜しました。それと同時に、あらゆる紛争において、すべての当事者が「正義」を主張するようになり、どちらかを「絶対的な善」、もう一方を「絶対的な悪」とする問題の解決が不可能になりました。

 スター・ウォーズも、物語が進むにつれて、帝国を支配するダーク・シディアスがなぜ「悪」なのかわからなくなっていきます。レジスタンスが勝利する大団円を迎えても喝采を叫べないのは、作品の出来不出来の問題ではなく、私たちがもはや勧善懲悪の世界を素直に信じられなくなったからでしょう。

 それよりずっと興味深いのは、壮大なスペースオペラの幕引きを、ダーク・シディアスの孫であるレイが「私はスカイウォーカーだ」と名乗る場面にしたことです。ここには、「真に重要なのは血統(生物学的に誰の子どもなのか)ではなく、個人の価値観だ」とのメッセージが込められています。

 ダイバーシティ(多様性)の時代には、同性愛やトランスジェンダーが広く受け入れられてきたように、「(自分の人生を自分で決定する)自己実現」が至高の価値をもつようになります。その意味で、(PCに合わせて女性になった)主人公のレイが、自分のアイデンティティを自ら選択するラストシーンは、「私がどのような人間かは私だけが決める」現代を見事に象徴しているのでしょう。

『週刊プレイボーイ』2020年1月27日発売号に掲載

 

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『上級国民/下級国民』(小学館新書)。

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