今から日本の国家破産に備える方法
2012年8月20日 橘玲

日本人を待っていた浅い眠り(第1部:第1回)

ユーロそのものの存在を危うくしているギリシャの財政破綻。
これは日本には起こりえない「対岸の火事」と言えるのだろうか…。
確実に近づいている日本の国家破産のシナリオと対策を3部に分けてお届けする。第1部は近未来小説の形式でお読みいただきたい。

 202X年4月10日、東京。いつものように、午前6時に人形町のワンルームマンションを出る。

 ゴミ置き場からあふれ出した生ゴミに、数十羽のカラスが集まっている。2週間前から東京都の清掃業者がストライキを始めたのだ。ついこの間、幼稚園児がカラスに襲われて顔を5針も縫う大ケガをした。刺激しないようそっと遠回りをする。

 公共の交通機関が相次いで値上げされたので、よほどのことがないかぎり会社まで歩くことにしている。今ではほとんどの企業が交通費を支給しなくなり、郊外に住み遠距離通勤などしようものなら電車賃だけで給料の半分が消えてしまう。

 日本橋から八重洲へと続く大通りにはシャッターを下ろしたままのビルが目立つ。もっとも少子高齢化の影響はどこも同じで、郊外につくられたかつてのニュータウンはすべて廃墟と化してしまった。その荒廃ぶりを見れば、このあたりは下町の風情が残るだけまだマシだ。

国債価格の下落から超円高がやってきた

 出社前に近くのスターバックスに寄り、3800円のカフェモカを飲むのが私のささやかな贅沢だ。紙の新聞はずいぶん前になくなってしまったので、iPad5を開いてニュースをチェックする。

 一面トップはあいかわらず「年金全共闘」で、新宿西口に3万人を超える団塊の世代の高齢者が集まり、「生きさせろ」と叫びながら警官隊と衝突した。大阪では1年以上も公務員の大規模ストが続いており、街中がゴミに埋まり、道頓堀を巨大なドブネズミが走り回っている。警察官のリストラで治安が悪化し、自治体は自警団を組織して検問を行ない、不審者を排除しようと躍起になっている。

 野球もサッカーも有望選手はほとんど海外に移籍してしまって、スポーツ欄は大リーグとヨーロッパサッカーの話題ばかりだ。いまでは“プロ”野球もJリーグもほとんどがアマチュア球団になってしまった。

 変化が起こったのは3年ほど前だった。さしたるきっかけもなく国債価格が下落し、金利が上がり始めたのだ。最初はなにが起きているのか、誰にもわからなかった。経済学者の中には、ようやく長いデフレから脱却できると、この現象を楽観的にとらえる者さえいた。

 そうこうするうちに、物価が上がり始めた。最初はガソリンと野菜で、国際的な石油価格の高騰と冷夏が原因とされたこともあって、まだ人々は比較的落ち着いていた。物価の上昇自体も急激ではなかったため、経済評論家たちもニュース番組で、日本経済復活に必要なマイルドなインフレが起きているのだと解説した。