ベトナム
2020年6月3日 中安昭人

【緊急レポート】新型コロナ対策優等生といわれるベトナム。
在住日本人から見たベトナム政府の対応はどうだったか?

市民の反応を見て臨機応変に対応。しかし危うさも

 決定が急なのは、国レベルだけではなく、ホーチミン市もそうだった。

 例えば3月24日、ホーチミン市は30席以上のレストランなどに対し、同日午後6時以降の営業停止を指示した。これほど重要な指示が出るのが何と当日なのだ。指示が出たとき私はカフェで作業をしていた。店内に変わった様子はない。私も「こんなに急だと従わない店も多いだろうな」とのんびり構えていた。

 ところが5時半頃になると、スタッフが店内を回って「市当局からの指示により、本日は午後6時で閉店となります」と、客一人ひとりに説明をし始めたのだ。私がいたカフェは、確かに席数は30以上ありそうだった。しかし店があるのは下町の、しかも路地の奥である。こんな目立たない店にまで、公安が取り締まりに来ることはないだろう。それでも忠実に指示を守っているのには意外だった。

 店を出て自宅に向かってバイクを走らせながら「他の店はどうなんだろうか」と町の様子を観察すると、確かに構えの大きい飲食店は、次々と店じまいの準備をしている。「公的権力が市民生活に口出しするのを嫌がるベトナム人でも、こういうときは、ちゃんと従うんだな」と感心した。

 ただしこの「30席以上」というのは曖昧さの残る指示だったため、席数が30を超えていても「要するに30人以上、お客さんを入れなけばいいんでしょ」と解釈して営業を続けた店も少なからずあった。この状況を見たホーチミン市は26日に「一度にお店に入るのを30人までにするなら、30席以上のレストランも営業を許可する」という追加の通達を文書で出している。この対応の素早さもベトナムらしいなと感じた。

 一般的な傾向として、日本人が深謀遠慮の民であるのに対し、ベトナム人は臨機応変の民である。一連の急な指示が受け入れられたのは、そういう国民性もあるだろう。巧遅と拙速、もちろんどちらにも良し悪しがある。今回のコロナ騒動において、この二者択一を迫られた場合、ベトナムは「拙速」を選択し、それが奏功したのではないだろうか。

 ただこの決断の速さに不安を感じるのも事実だ。「COVID-19予防国家指導委員会」という対策チームはあるものの、一連の対策は首相を中心とする指導部の独断専行で対策が進められたように見えた。今回はいい結果が出たから良かったものの、国会のような場で民意を問うプロセスがないまま、重大な決定が行なわれることには危うさを感じる。もっとも共産党一党独裁のベトナムでは、国会は党の指導下にあるのだが。

CoCo壱番屋・ホーチミン店が出した告知【撮影/中安昭人】
3月24日の告知を受けて、最初は「1時間に30名まで」という方針を出していたが、「一度に入店できるのは15名まで」と改めた【撮影/中安昭人】