橘玲の日々刻々
2020年7月27日 橘玲

黒川元検事長と賭け麻雀していたとして問題となった新聞社の
メディアとしての「説明責任」とは?
【橘玲の日々刻々】

 東京高検検事長が新聞記者宅で賭け麻雀に興じていたことが発覚して辞職した事件で、産経新聞と朝日新聞がそれぞれ参加した社員に停職1カ月の処分を発表しました。これに対して、「賭け麻雀で逮捕・書類送検された有名人もいるのになぜ違法行為で処罰されないのか」「一方の当事者が辞職しているのに社内処分が軽すぎるのではないか」などの批判がありますが、これはとりあえず脇に置いておきましょう。

 メディアの対応としてきわめて疑問なのは、両新聞社とも、事件発覚後にいちども記者会見を開かず、取材を拒否していることです。自分たちは常日頃、政府や行政、大企業に対して「説明責任」を声高に求めているにもかかわらず、自らの説明責任を平然と放棄するのはダブルスタンダードの極みでしょう。

 ここで、「記者会見はやっていないとして、なぜ取材拒否しているとわかるのか?」との質問があるかもしれません。それは、週刊プレイボーイ編集部を通じて私が両新聞社に取材を申し込んだからです。

それに対して朝日新聞からは、以下の2つの理由でインタビューを受けられない旨の回答がありました。

(1) 賭け麻雀をした社員を厳正に処分しており、社としての経緯や見解も公表している。

(2) 取材先との向き合い方など報道倫理に関して見直しを進めており、ホームページでの公表を予定している。

 そのうえで「今後も報道機関として説明責任を尽くしてまいります」とのことですが、これで納得するひとはどれほどいるでしょうか。これまで朝日新聞がやったことは、「社内で調査した」「社内で処分を決めた」「社内で改善策を検討している」だけで、外部からのチェックはまったくありません。

 不祥事を内輪で適当に処分し、「改善しました」と発表するだけで済ませることを、これまでメディアはさんざん批判してきたはずです。これが許されるなら、モリカケ問題や「桜を見る会」の疑惑も、政府が内部で調査したのだからそれで十分ということになるはずです。

 しかしそれでも、朝日新聞は「見直し」公表後、フリーのジャーナリストや海外メディアも加えた記者会見で自らの「説明責任」を果たすつもりがあるのかもしれません(すくなくともそれを否定はしていません)。それに対して産経新聞からは、次の一行がFAXで送られてきました。

「インタービュー取材はお断りさせていただきます」以上です*。

 これは自らの説明責任自体をはなから放棄しているという意味で、逆に一貫しています。そしてこれは強調しておかなくてはなりませんが、このような傲慢な態度がとれるのは、他のメディアも同じ穴の狢で、自分たちを批判できるわけがないと高をくくっているからです。その意味で、日本のすべてのメディアが同罪です。

 唯一の収穫は、今後、不都合な取材を受けたときにどのような対応をすればいいか教えてもらえたことです。個人的には、産経新聞のシンプルな回答をテンプレにすることをお勧めします。

*回答の全文はこちらで読めます。「インタービュー」は原文ママ。

『週刊プレイボーイ』2020年7月20日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)。

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