橘玲の日々刻々
2021年3月1日 橘玲

格差の問題を考えるために
「公平」と「平等」について話をしよう
【橘玲の日々刻々】

 新型コロナウイスルの感染拡大で世界的に失業率が上昇しているにもかかわらず、金融市場は大賑わいで、GAFAなどプラットフォーマーが軒並み最高益を更新し、新興ゲーム会社の株価がSNSの投稿で乱高下し、イーロン・マスクのテスラが購入したビットコインなど仮想通貨の価格も上昇しています。その結果、経済格差はさらに拡大しており、今後、政治的な争点になるのは間違いありません。

 ところで、格差の問題を考えるとき、いたずらに議論を混乱させるのは「公平(機会平等)」と「平等(結果平等)」がごっちゃになっていることです。ここではそれを50m競走で説明してみましょう。

「公平」とは、子どもたちが全員同じスタートラインに立ち、同時に走り始めることです。しかし足の速さには違いがあるので、順位がついて結果は「平等」になりません。

 それに対して、足の遅い子どもを前から、速い子どもを後ろからスタートさせて全員が同時にゴールすれば結果は「平等」になりますが、「公平」ではなくなります。

 ここからわかるように、能力(足の速さ)に差がある場合、「公平」と「平等」は原理的に両立しません。

 このようなとき、5歳の子どもであっても、(足の速い子が1等になる)不平等を容認するのに対し、(足の遅い子が優遇される)不公平は「ずるい」と感じることがわかっています。人が理不尽だと思うのは「不平等」ではなく「不公平」なのです。

 もしひとびとが富の分布の不均衡に反発しているのなら、20兆円を超える資産を持つイーロン・マスクは世界中から罵詈雑言を浴びているはずですが、4500万人を超えるツイッターのフォロワーの反応は圧倒的に賞賛と応援です。

 これはひとびとが、「グローバル資本主義」の不平等を受け入れていることを示しています。だったら、格差の何が問題なのでしょうか。

 ひとつは、競争の条件が公平ではないと感じているひとがいることです。

 アメリカでは、奴隷制の負の遺産によって黒人に不公平な機会しか与えられていないとされる一方で、それを是正するためのアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)によって、白人労働者が不公平な競争を強いられていると主張するひとたちもいます。両者の意見は折り合わないでしょうが、自分たちが不公平の「犠牲者」ということでは一致しています。

 もうひとつは、競争の結果は受け入れるとしても、その競争を強いられるのは理不尽だと考えるひとが声を上げはじめたこと。

 私がテニスで錦織圭と、将棋で藤井聡太と競えば、100回やって100回とも負けるでしょう。私はその結果を不公平とは思いませんが、そのようなゲームを強いられたことはとてつもなく理不尽だと感じるでしょう。

 このようにして、「資本主義」というゲームに同意なく参加させられることを不公平だとするひとたちが現われました。これが「レフト(左翼)」とか「ラディカルレフト(過激派)」と呼ばれるひとたちで、資本主義ではない「より人間らしい」経済制度を求めています。

 このように整理すると、すくなくとも議論の第一歩にはなるのではないでしょうか。

『週刊プレイボーイ』2021年2月22日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)。

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