橘玲の世界投資見聞録
2012年12月27日 橘玲

[橘玲の世界投資見聞録]
中国・成都に見る、異常な不動産バブル発生のメカニズム

 不動産開発は、2008年のリーマンショック後に中国政府が行なった大規模な景気対策でさらに加速する。09年と10年の2年だけで銀行融資は2兆7000億ドル(約220兆円)の巨額に達し、この過剰流動性が資産価格の大幅な上昇をもたらしたことは先にも述べた。

 実態を無視した不動産開発がどのような帰結を迎えるかは、内モンゴル自治区のオルドスが象徴している。

 石炭の産地として知られるオルドスでは、資源価格の高騰を追い風に不動産開発が行なわれ、高層ビルが林立する新都心がたちまちのうちに現われた。だが世界金融危機の煽りを受けて石炭価格は下落し、不動産価格を抑制する中央政府の政策変更(2010年)でバブルがはじけると、新都心は誰も住まないゴーストタウンになってしまった。石炭の採掘権を売って大金を手にした農民は、それを元手に借り手のいないコンドミニアムを何軒も購入し、価格の下落で破産や夜逃げが続出したのだ(今回の旅ではオルドスを訪れることはできなかったが、インターネットで検索すればその寒々しい光景を見ることができるだろう)。

 もちろん、石炭以外に経済の実体がなかったオルドスと、中国内陸部の主要都市である成都を同列に語ることはできない。だがそれでも、あやういバブルの構図はよく似ている。

 

不動産バブルが加速する仕組み

 中国版バブルでは、各省や地方政府ばかりではなく、地方政府内でも有力者同士が競って不動産開発を手がけ、その結果、似たような施設があちこちにできることになる。商業物件なら高級ブランドや外資系5つ星ホテル、オフィス物件なら外資系金融機関やIT企業が優良テナントで、彼らを誘致できるかどうかで事業の成否が決まるから、大幅なダンピングが当たり前に行なわれている。

 ショッピングセンターなら、ルイ・ヴィトンやシャネル、プラダなどをテナントにするのが超一流の条件だ。デベロッパーがもっとも恐れるのは、こうした高級ブランドをライバルに持っていかれることで、いまでは2年のフリーレント(賃料無料)が最低条件といわれている。

町の中に突然巨大な船。実はレストラン。営業しているかどうかは不明 (Photo:©Alt Invest Com)

  会社員の月収が管理職で1万元≒13万円、サービス業なら店長クラスで4000元≒5万円という現在の所得水準では、10万円以上もする(本物の)ヴィトンのバッグを中間層が買えるはずはない。それでも高級ブランドが積極的に出店するのは、きわめて安いコスト(人件費と内装費)で自社ブランドへの“憧れ”を植えつけることができると考えているからだろう。複数のショッピングセンターにフリーレントでアンテナショップを出し、賃料が発生するようになったら整理・撤退すればいいのだ。

 飲食店の場合は仕入れコストがかかるから、物販のようにフリーレントだけでは有力テナントを集めることができない。そのため、月額10万元(約130万円)程度の売上げ保証まで提示されているという。

 フリーレントが常態化するのはオフィス物件も同じで、外資系金融機関などは広告塔としてきわめて有利な条件で入居できる。外資系ホテルが次々とオープンするのはホテル運営会社がまったくリスクを負わない受託方式だからで、デベロッパーはホテル運営会社にマネジメント料やブランド料を支払ったうえで、事業の損失をすべて負わなければならない。

 有力テナントを誘致してライバルと差別化する戦略は一見わかりやすいが、賃料がほとんど入らないのだから、当然のことながらデベロッパーの資金繰りは悪化する。だが、ライバルより先に賃料を徴収すればテナントが撤退してしまうかもしれない。そうなれば事業そのものが頓挫してしまうから、どこもこの“勝者なき持久戦”をつづけざるを得ないのだ。

 それでは、デベロッパーはどうやって資金繰りをつけているのだろうか? コンドミニアムが計画どおりに売れればなんの問題もないのだが、そうでなければ金融機関から融資を受けるしかない。

このコンドミニアムもすべて空室。入居者募集中 (Photo:©Alt Invest Com)

 もっとも、いくら国有金融機関でも売上げのない物件に安易な追加融資はできない。融資を受けるには相応の名目が必要で、それは地方政府のお墨付きのある新たな不動産開発事業しかない。

 地方政府の立場としても、デベロッパーが倒産すれば金融機関の不良債権が表に出てしまう。さらには物件価格が下落すれば、不動産を担保に借金をしている自分の資産まで大きく傷つくことになる(場合によっては破産してしまうかもしれない)。

 地方政府の幹部たちは、不動産の転売で巨額の富を築いた前任者の成功を目の当たりにしている。だとしたら、自分が同じ幸運を手にするまではどんなことでもするだろう。

 このような理由で、デベロッパーの経営が苦しくなればなるほど、新たな都市計画と公共投資で不動産バブルが加速していくのだ。