橘玲の世界投資見聞録
2013年4月2日 橘玲

[橘玲の世界投資見聞録]
地中海の小国・キプロスの経済危機を
収束させた預金者負担の後味

預金額10万ユーロ超をペイオフ

 地中海の小さな島国をめぐる春の椿事は、結局、ヨーロッパ諸国で一般に預金保険が適用される10万ユーロまでの少額預金を全額保護し、10万ユーロ超の大口預金をペイオフ(保護対象外)とすることで決着した。これによってキプロス政府は有権者の同意を得やすくなるが、その代わり大口預金者の負担は大きくなり、最大手のキプロス銀行で預金の最大損失は60%、破綻処理が決まっているライキ銀行に至っては損失割合が80%にのぼるとの試算も出ている。これでは資産没収とほとんど変わらない。

 このような極端な措置がキプロス議会を通過したのは、大口預金者の大半がロシア人(個人と法人)で、その多くがグレイなものだから表立って抗議できない、という事情があるからだろう。

キプロス最大の金融機関バンク・オブ・キプロス。今回の金融危機では存続銀行になった (Photo:©Alt Invest Com)

 キプロスがEUに金融支援を求めてから今回の混乱まで8カ月以上たっている。本来ならその間に安全なところに資金を移してしまえばいいのだが、ロシアに戻すことも、スイスなど信用力の高い金融機関に送金することもせず、キプロス国内に留まったままだったということが、こうした大口資金の性質を示している。キプロスのような透明性の低いタックスヘイヴンの存在を不快に思っていたEUの高級官僚にとっては、預金者に負担を求めるのは犯罪収益の没収のようなものだったにちがいない。

 キプロスの抱える特殊な事情を考えれば、今回の騒動がギリシアやスペイン、イタリアへと波及していくことはないだろう。だが欧州(とりわけ南のヨーロッパ)の預金者が、この事態をどのようにとらえているかは別の話だ。

 近代国家は立法・司法・行政の三権と、警察や軍隊などの暴力を独占している。キプロス問題は、国家が預金封鎖のような極端な措置を実行できることと、国家破産の危機に瀕すれば国民の資産が優先的に保護されるわけではないことをすべてのひとに知らしめた。

 次に財政危機に陥る国が現われたとき、今回の「教訓」に学んだ預金者が大規模な取り付け騒ぎを起こさない保証はない。そしてそのような国は、近い将来、必ず現われる。

 これはもちろん、ヨーロッパだけの話ではない。