橘玲の世界投資見聞録
2013年6月20日 橘玲

道の渡り方からアジアについて考える
[橘玲の世界投資見聞録]

中国の交通マナー対策は極端

 中国独自の“交通ルール”は世界じゅうの観光客から悪評を浴びており、北京オリンピックや上海万博などの重要な国際行事があるたびに運転マナーの改善を命ずる政府の施策が講じられてきた。

 もっともお上の指導に人民がおとなしく従うようなら、この巨大な国の統治に苦労はいらない。こうした時にいきなり極端になるのもこの国の常で、すべての交差点に交通指導員を配置しても改善しない状況に業を煮やし、車でひとをはねて死なせた場合はドライバーは問答無用で死刑、という法律に変えてしまった。

 しかし、中国で交通ルールを守らないのはドライバーだけではない。地方都市では、ついこのあいだまで信号機はおろか横断歩道もなかったから、歩行者には「道路は横断歩道で渡る」とか、「歩行者用信号が赤の場合は青に変わるまで待つ」という基本的な約束ごとが理解されていない。横断歩道のないところでいきなり歩行者が車道を渡りはじめるのはどこでも見られる光景だ。

 私が中国に滞在していたときに大きなニュースになっていたのが、歩行者をはねたタクシー運転手の話だ。彼はこれまで無事故無違反の優良ドライバーだったが、制限スピードを守って走っているときに、いきなり車道に飛び出してきた歩行者をはねて死亡させてしまった。運転手にはなんの過失もなく、妻と幼い子どもがいるにもかかわらず、新しい法律では彼は死刑になってしまうのだ(その後どうなったのかは知らない)。

 ところがこんな中国の交通事情にも、すこしずつ変化の兆しが見られるようになった。

 今回中国を訪れたときに、杭州で横断歩道を渡ろうとしたら車が止まってくれた。こんなことはこれまで経験したことがなかったのでほんとうにびっくりしたのだが、すこし観察していると、歩行者を見て止まるのはバスとタクシーだけのようだ。一時停車せずに通報されると罰則が科せられることになっているのだろう。

杭州の横断歩道  (Photo:©Alt Invest Com)

 だがこうしたルールは一般車には適用されないから、かえって危険でもある。タクシーが止まって道を渡ろうとすると、その右側を猛スピードで一般車が走り抜けていくからだ。もっとも、タクシーが停車しているのに横断歩道に突っ込んでいくのはやはり躊躇するらしく、何回かに1回は一般車も停車している。こうやってすこしずつ新しいルールが定着していくのだろう。

深センで遭遇したマナー改善の兆し

 広東省の深センは改革解放後になにもない漁村から開発された新興都市で、香港からは電車やバスで1時間ほどの距離だ。香港はイギリス流の運転マナーで歩行者優先が徹底されている。そんな「文明世界」から、国境を渡ったとたんにいきなり「車優先」の傍若無人な世界に変わるのはかなりの衝撃だ。

 深センは都市計画によって、すべての道路が余裕をもってつくられている。それはいいのだが、その結果、歩行者用の信号が赤から青に変わるまでものすごく時間がかかる。そのうえ信号機同士の連絡がうまくいっていないからか、左右の信号が赤で車が1台も来ないのに歩行者用の信号も赤のまま、ということがしばしば起こる。これではあまりにも馬鹿馬鹿しいので、歩行者は勝手に道を渡りはじめる。

 ところがこの深センでも、今回、変化の兆を感じることができた。