橘玲の日々刻々
2013年10月29日 橘玲

天に向かって吐いたつばは、自分の顔に戻ってくる
[橘玲の日々刻々]


 非科学的な海外産牛肉の輸入規制と同時に、日本では01年から食用牛の全頭検査が行なわれてきました。しかしこれも、BSEの原因である異常プリオンが脳などの特定部位に集まるのは高齢牛だけで、若齢牛の脳を調べても感染牛を発見することはできず、「全頭検査は税金のムダ」というのが世界の常識でした。先進国でこんなことをやっているのは日本だけにもかかわらず、200億円の税金が投じられた全頭検査が全国で廃止されたのはようやく今年の6月でした。

 海外産牛肉の過度な輸入規制も、食用牛の全頭検査も、その理由を問われたとき、政治家や役人は「消費者の不安にこたえるため」と説明してきました。科学的な根拠があるかどうかに関係なく、消費者が心配していれば国が規制するのは当たり前、というのです。

 海外産牛肉の輸入規制は昨年末に慌しく緩和されましたが、この政策変更は、福島の原発事故で日本の農水産物が世界各地で風評被害を被ったからだといわれています。一方で「科学的根拠などどうでもいい」といいながら、もう一方で放射能の科学的な安全基準を説くわけにはいかないからです。

 BSE問題で日本政府は、消費者に正しい説明をする責任を放棄し、10年以上にわたって非科学的な規制を続けてきました。天に向かってつばを吐けば、それは自分の顔に戻ってくるのです。

註:本稿は科学ジャーナリスト松永和紀氏の「米国牛肉 BSE輸入規制 日本の条件、もはや科学的根拠なし」を参考にしました。

『週刊プレイボーイ』2013年10月21日発売号に掲載