橘玲の世界投資見聞録
2014年2月11日 橘玲

空前の観光ブーム・モロッコで5カ国語を操る
ベルベル人ガイドが生き残るための才覚
[橘玲の世界投資見聞録]

「アラブの春」を回避したモロッコの観光業は空前の好景気

 今年で30歳になるヨセフは5人きょうだいの長男で、妹が2人と弟が2人いる。それ以外に先妻の子である義兄がいて、おじ・おば、いとこなど親族を合わせると何人になるか数え切れない。妹2人はすでに嫁いだが、弟はまだ中学生と高校生だ。父親は農業で、兄は「アーティスト」と名乗っているが土産物店に置いてある民芸品をつくっている。いずれもたいした稼ぎにはならず、弟たちを大学まで出す責任は商才のある彼の肩にかかっているのだ。ヨセフがまだ結婚できないのは、“家長”としての責任を果たすためだ。

 ヨセフによれば、モロッコの観光業はいま空前の好景気だという。

「アラブの春」と呼ばれた民主革命の後、チュニジアではイスラム原理主義が台頭し、野党党首や政治家が暗殺され大規模な抗議のゼネストが起こった。エジプトでは選挙によって選ばれたムルスィー大統領がクーデーターで退陣させられ、ムスリム同胞団と民主派による抗議行動が続いている。エジプトもチュニジアも北アフリカの観光立国だが、治安の悪化を嫌って海外からの観光客は大幅に減った。その多くが「アラブの春」を無傷で乗り切ったモロッコに旅行先を変えたのだ。事実上の王政であるモロッコの政治については慎重に言葉を選んでいたが、ベルベル人の旅行業者としては、「いろいろ不満はあるけれど、商売がうまくいっているあいだは社会の混乱はご免だ」ということらしい。

 モロッコはいま、北アフリカで唯一「安全に旅行できる国」で、エキゾチックな雰囲気とサハラ砂漠を楽しもうと世界じゅうから観光客がやってくる。この機会を逃さないため、ヨセフはロシア語を勉強中で、その後はヘブライ語を話せるようになりたいのだという。

「ロシア人はまだ数は少ないけど、1回に使うカネが半端じゃないんだ。イスラエル人はイスラム原理主義者のいる国は嫌うだろ。だとしたら北アフリカで旅行できるところはここしかないんだから、これから増えると思うんだ」

 そんな話をしならが、年末に向けてどのホテルをいくらで押さえるか携帯で矢継ぎ早に指示し、それが終わるとヨセフはいった。

「この業界では言葉はちからなんだよ。より多くの言葉を話せればそれだけ有利なんだ」

 5カ国語を駆使しながら、ヨセフは今日も、家族のためにマラケシュとフェズの間を爆走するのだ。

マラケシュ、フェズ・カサブランカなどの主要都市は鉄道で結ばれている   (Photo:©Alt Invest Com)

 

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

 
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