橘玲の日々刻々
2014年3月3日 橘玲

NHKが「不偏不党」でなくなると、正直者がバカを見る
[橘玲の日々刻々]

 NHKが新会長の就任会見での「個人的見解」や保守派の経営委員の一連の発言、さらには「現代のべートーべン」騒動で窮地に立たされています。とりわけ、経営委員の長谷川三千子氏が天皇を現御神(あきつみかみ)として人間宣言を否定したことと、作家の百田尚樹氏が都知事選の応援演説で、原爆投下や東京大空襲は大虐殺であり、東京裁判はそれをごまかすためのものだったと述べたことが、「不偏不党」の原則に反すると批判されています。

 NHKや民放など放送事業者の業務を規定した放送法では、「政治的に公平であること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」が定められています。しかしNHKには、それ以前に不偏不党でなければならない事情があります。

 放送法では、テレビ受像機を持つ全世帯に受信料の支払義務がありますが、かねてから不払いによる不公平が指摘されてきました。NHKによる都道府県別調査(2012年度末)でも、9割以上の世帯が受信料を払っている地域もあれば、沖縄県(44.3%)、大阪府(58.0%)、東京都(61.6%)のように支払率が極端に低い地域もあります。全国平均は73.4%で3割が不払いなのですから、「正直者がバカを見る」といわれても仕方のない数字です。

 NHKの経営を支える受信料制度は、「特定の勢力や団体に左右されない独立性を担保するため」に必要だと説明されますが、この理屈は危うい均衡の上に成立しています。不払いは経済的な理由がほとんどだとしても、この制度では思想信条においてNHKの立場を認めないひとにも受信料の支払義務を課すことになるからです。

 これはNHKにとってパンドラの箱で、受信料制度を維持するにはぜったいに手を触れてはならないものでした。特定のイデオロギーを持つ党派に加担すれば、別の党派から偏向報道との攻撃を受け、制度の根幹が揺らいでしまうからです。