橘玲の日々刻々
2014年10月14日 橘玲

現代がストレス社会なのは
「世の中がどんどん悪くなっているから」ってホント?
[橘玲の日々刻々]

 現代はストレス社会だといわれます。メンタルヘルスのクリニックや診療科は増えつづけ、カウンセリングを受けたり、日常的に向精神薬を服用するひとも珍しくなりなりました。

 ストレスを感じるのは、世の中がどんどん悪い方向に向かっているからです。経済格差は拡大し、国際金融資本主義は破綻寸前で、中国は軍事的攻勢を強め、安倍政権は戦争の準備に余念がありません。これでは将来のことが不安にならない方がどうかしています……。

 しかし、いちど冷静になって考えてみましょう。

 客観的なデータを見れば、日本人がものすごくゆたかになったのは間違いありません。昭和30年代を描いた映画がヒットしたことがありましたが、あの時代にはインターネットもゲームもディズニーランドもなく、車を持っているのはごく一部で、海外旅行など夢のまた夢でした。

 それと同時に、日本人はずっと長生きになりました。昭和30年代の日本人は60代半ばで死んでいましたが、いまではさらに15年も人生を楽しむことができます(80歳時点での認知症の発症率は8%程度)。労働時間も、『女工哀史』の時代は年間3500時間が当たり前で、みんな土曜も日曜もなく朝から深夜まで働いていました。厚労省が定める過労死の基準が月80時間残業で、月20日勤務なら労働時間は合計240時間、これを1年間続けても2880時間ですから、戦前や終戦直後の労働がいかに過酷だったかわかります。

 高校進学率はほぼ100%になり、大学も希望すればほぼ全員がどこかに入れます。治安の悪化が憂慮されていますが、「古きよき」昭和30年代の人口当たりの殺人件数は現在の2~3倍でした。

 こうした変化を総合すれば、わたしたちが人類史上もっとも自由で安全な、とてつもなく幸福な時代に生きていることは明らかです。それなのになぜ、ストレスを感じるのでしょうか。