橘玲の日々刻々
2014年12月2日 橘玲

「嫌われたくない」安倍首相に利用された衆院解散・総選挙
[橘玲の日々刻々]

 安倍首相が年内の衆院解散・総選挙に踏み切りましたが、これは首相の政治家としての資質、というか性格をよく表わしています。それをひと言でいうなら、「嫌われたくない」です。

 消費税引き上げは、民主党・野田政権時代に、野党の自民党・公明党と結んだ三党合意によって、来年10月から10%とすることが決められました。この合意には「景気弾力条項」があり、経済状況によっては引き上げを停止するとされていますが、その決断の時期が迫っていたのです。

 この状況を、首相の立場になって考えてみましょう。

 14年4月の8%への消費税引き上げは民主党が決めたことです。自民党も容認したとはいえ、当時は谷垣総裁ですから、消費税増税を後日批判されるようなことになっても安倍首相はいくらでも言い逃れできます。それに対して10%への引き上げは首相の判断に任されており、言い訳はききません。増税を喜ぶ国民はいませんから、今度は自分が憎まれ役にならなければならないのです。

 望ましいのは増税を止めてしまうことですが、景気弾力条項で想定されているのはリーマンショックのような経済危機で、アベノミスクで「好景気」をアピールしている以上、この方便は使えません。それでも増税を延期すれば、野党から「(三党合意を反故にした)嘘つき」呼ばわりされることは避けられません。これはプライドの高い首相にとって、我慢できない状況でしょう。

 ところが10月31日の日銀の追加金融緩和によって、思いがけず円安と株高が進みました。これによって、「選挙で信を問う」という都合のいい道が開けたのです。「嫌われたくない」安倍首相が、この千載一遇の機会を見逃すはずはありません。日銀は消費税引き上げを後押しするつもりだったのでしょうが、体よく利用されていい面の皮です。