アラブ
2016年7月19日 岩永尚子

教えて! 尚子先生
エジプトやシリアになぜキリスト教徒がいるのですか?
彼らはカトリックやプロテスタント、正教とはどう違いますか?

【中東・イスラム初級講座・第34回】

日本では珍しい女性の中東研究家として活躍する岩永尚子先生が中東やイスラム教関連についてわかりやすく解説するシリーズ。イスラム教徒で注目を集めている中東ですが、実際にはキリスト教徒も多く住んでいます。中東とキリスト教徒との関係は? 

 2011年の調査によれば、世界にキリスト教徒は約21億8千万人おり、世界人口の約3分の1がキリスト教徒ということになります。キリスト教徒の中では50%がカトリック、プロテスタントが37%、ギリシャ正教が12%という内訳になっているそうです。

 近年の無差別なテロ行為が注目されることによって、中東ではイスラム教という印象が強いですが、中東にはキリスト教徒も多く住んでおり、聖書を少しでも読むと、聖書の舞台となっているのはまさに中東であることがわかります。

聖書の舞台は中東にあった!?

 たとえば、イエスが生まれた後にマリアとヨセフがヘロデ王の幼児殺害の命令を受けて避難したのはエジプトですし、イエスがヨハネから洗礼を受けたのはヨルダン川(現在のヨルダン・イスラエル国境)、ペトロが宣教していたのはダマスカスです。このように中東はまさに聖書の世界なのです。

 ところが、7世紀にイスラムが中東に誕生して勢力を拡大したため、現在では人口の大半がイスラム教徒となっています。そのため、キリスト教徒の存在は印象が薄くなってしまっていますが、キリスト教徒ももちろん、脈々と暮らし続けています。

 中東のキリスト教徒にとって、自らの祖先がイエスの時代からキリスト教徒であったというのが共通の認識で、聖書の故事に倣って自らの存在を「生ける石」と比喩しています。

 このように、イスラムが勢力を伸張した際に、すべてのキリスト教徒に改宗が迫られたわけではありません。改宗しなかった啓典の民(ユダヤ教とキリスト教)については、イスラムの支配者に対して一定の税金を支払うことで、他の宗教の成員も保護するという契約を結び(ズィンマ:庇護契約。庇護の下に入る人々をズィンミーとよぶ)、多様な宗教の人々と共存してきたのです。

 イスラム勢力が伸張するにつれて、庇護契約はユダヤ教やキリスト教だけでなく、ゾロアスター教徒やヒンドゥ教徒、仏教徒へも拡大していったといわれています。

  中東では政情が安定していれば、キリスト教徒は「日常」にとけこんでいて、なかなかその存在に気づけないほどです。実際、エジプトでは人口の約11%程 度、シリア(約10%)、ヨルダン(約7%)と、少数派ではありますが、かなりの数のキリスト教徒が、多数派のイスラム教徒に交じって共存しています。

 キリスト教徒は一般的に都市部に多いといわれていますが、都市部だけでなく、シリアやヨルダンにはキリスト教徒だけの村や町も存在しています。

 中東で最もキリスト教徒の割合が高いのがレバノンです。レバノンでは人口の約40%程度がキリスト教徒であるといわれています。レバノンの政治は宗派と密接に関係しており、宗派ごとに国会議員の数が割り当てられているだけでなく、大統領はマロン派のキリスト教徒、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はイスラム教シーア派から選出されるのが慣例となっています。

 人口が約465万人(2015年)のレバノンに、キリスト教やイスラム教など18ものさまざまな宗教の宗派がひしめきあっているというから驚きです。

マアルーラの風景/マアルーラ,シリア【撮影/安田匡範】