日本の伝統文化を見直す機運が盛り上がっている。一部の好事家にとどまっていたクラフトマンシップに新鮮な解釈を加えることで21世紀のライフスタイルに溶け込ませようという頼もしい試みである。モダンのさじ加減もさることながら、その取り組みに対する真摯な姿勢に好感を覚えるのが、三越伊勢丹が総力を挙げてスタートさせた『SEKItoWA=セキトワ』だ。

 三越伊勢丹が今年2月、新たなハウスブランドを立ち上げた。その名を『SEKItoWA=セキトワ』という。古き良き日本の手仕事を後世につなぐことを願うブランドだ。見どころは三越伊勢丹のフィルターを通したモダンなアップデート、そしてもう一つが職人技を掛け合わせることで表れる唯一無二の存在感。セキトワを変換すれば、“積と和”となる。

 「われわれは“現代”工芸をテーマに職人仕事の再生を目指しています。まず俎上に載せたのが、藍、漆、金箔に代表される日本固有の文化でした」(同社商品開発マネージャー兼バイヤー、飯塚裕之氏)

 国宝の復元も担う箔工芸作家・裕人礫翔(ひろとらくしょう)氏の金銀箔、旧国選定無形文化財に認定された阿波藍師の外山良治氏が手掛ける天然藍染料、創業170余年の京都の老舗・川島織物が織り上げた西陣織、かつて甲冑の素材に使われた黒桟革。これら伝統素材をこれまた職人技が息づくプロダクトメーカーが料理する──まさにブランド名を具現してみせた『セキトワ』のデビューは内外の話題をさらった。

 三越伊勢丹のこの試みは職人にとっても魅力的に映ったようだ。往時の姿をとどめ、商売が成り立っている工房はごくわずかであり、誰もが打つ手を必要としていた。

ツツミ産業×佐藤喜代松商店のマグネシウム合金のアタッシェケース
精密板金メーカーのツツミ産業が作り上げたマグネシウム合金の筐(きょう)体に京漆の名門として名高い佐藤喜代松商店が漆を塗り込んだアタッシェケース。漆を塗り、研ぐの繰り返しで、ケース一つ完成させるのに2カ月を要するという。正確無比なシルエットを描く、漆黒を思わせるつややかなボディは映画『2001年宇宙の旅』で鍵を握った石柱状の謎の物体、モノリスを思わせる。81万円
〈SEKItoWA/日本橋三越本店 TEL03-3241-3311(大代表)〉

 まず名乗りを挙げた1社が神奈川県下に工場を構えるツツミ産業だ。従来不可能とされていたマグネシウム合金の板金加工を確立したメーカーで、熟達した作業が前提となるその技術を知らしめるべく試作したのがフルボディのアタッシェケースだった。

生漆の状態を見つめる佐藤喜代松商店の四代目、佐藤貴彦氏。父の豊氏が開発、貴彦氏が深化させた漆は業界にとって一筋の光明だった。三越伊勢丹のバイヤーは「その仕上がりは圧倒的に優れていました」と取引きを即決した