80年代末のバブル崩壊後、日本経済がいまだに回復していないと言われる一方、アメリカはFRBが11月に発表したQE2(追加的量的緩和政策)などの金融緩和政策を矢継ぎ早に実施し、「日本の二の舞にはならない」とベン・バーナンキ議長も発言しています。

 しかし、数々の政策を発動してもアメリカは失業者の増加(=(約)雇用が増えない)に喘いでいます。

 その点、日本はバブル崩壊後も失業率が3%台で推移し、雇用に関しては今のアメリカより安定していました。だからこそ「日本は問題を先延ばしにしているだけで遅い!」と言われたわけですが。

株価指数は堅調でもデフレ化の兆候が!?

 しかし、経済の実態はどうなのでしょうか。住宅バブル崩壊後の両国の経済データを比較すると面白いことがわかります(日本は91年6月、アメリカは06年6月、それぞれ住宅価格がピークだった月を基準に比較しています)。

 まず、NYダウは一度失速したものの、09年3月以降は急回復し、今では住宅バブル崩壊前の水準に戻ってきました。一方、日経平均は下落したまま、今でもバブル崩壊前の水準には戻っていません。日米でずいぶんと経済の回復度合いが違う、と思いますね。

 しかし、今回のNYダウの上昇にはかなり特殊な背景があります。直接金融が発展しているアメリカ(特にNYダウ構成銘柄のような大企業)の場合、今回のように金融機関がまともに機能していないときに乗じて極めて低金利で自ら資金調達することが可能です。

 しかも、その資金で雇用を増やさず、逆にさらにリストラを進め、調達した資金で借金返済と自社株買いをしたのです。その結果、企業収益が上がって株価が上昇した、というカラクリがあるのです。

「株価上昇=景気回復」という思い込みは危険!住宅バブル後の株価指数の動き。アメリカにもデフレの兆候が現れている

 では、CPI(消費者物価指数)、つまりインフレ指数で比較するとどうでしょうか。

 「『10年かかってもデフレを克服できないノロマな日銀』と『多少は失業率が上昇するのを犠牲にしても素早く対応したFRB』は違う」という論調が日本でもアメリカでも多く、いろんなメディアで「アメリカは日本の二の舞にはならない!」と言われています。

 諸条件が違うのは確かですが、しかし実際には大規模な金融緩和にもかかわらず、アメリカでも日本が陥った「デフレ化」の兆候が見られることがわかります。

 ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン先生は「このままいくとアメリカは間違いなく日本の二の舞になる!」と警告し、バーナンキ議長を「Mr. Bernanki」ではなく「Bernanki SAN」と、日本流に呼ぶという皮肉ぶりを発揮しているほどです。

 株価だけを見ていても、その国の経済の実態はわかりません。ぜひ、今後は基礎的な経済データにも注意を払うことをお勧めします。


●筆者Profile
現役金融マン・ぐっちーさん
大学卒業後、丸紅を経て、モルガン・スタンレーやABNアムロなどで活躍。現在もM&Aや地方再生などのディールをこなす一方、07年に「アルファブロガーアワード」を受賞。AERA、SPA!の連載のほか、「THE GUCCI POST」を開設し、経済金融評論家としても活躍中。

※この記事は2010年12月21日(火)発売の月刊マネー誌『ダイヤモンドZAi』2011年2月号に掲載。2月号の特集は「いちばんわかりやすい 2011年大予測」。特別付録はいま話題の「くりっく株365超入門BOOK」。