MDBDとは、自社の強みや資源から発想するのではなく、マーケットに存在する「声」からアイディアを着想し、マーケットとの対話を通じて洗練させる事業開発手法のこと。コモディティ化が進む市場のなかで今、新業態の創造は可能なのか? 新たな成長機会をつかみ、新業態への挑戦の成功確率を高める、MDBDの方法論を紹介する。

 1990年代後半から2005年にかけて、あらゆる市場でコモディティ化が進んでいると指摘するのは、早稲田大学商学学術院長兼商学部長の恩蔵直人教授である。

 コモディティ化とは、企業間の技術的水準が次第に同質的になり、供給される製品やサービスの差別化が困難になり、顧客側からはほとんど違いを見出すことのできない状況のことをいう。「コモディティ化が進む市場において、知恵や策がなければ価格競争へと陥り、やがてはヘル(地獄)へと落ちていく。このような環境のなかでは、新しいマーケティングの発想が求められる」と恩蔵教授は言う。

■独自価値を持つ新業態の開発を目指す

及川直彦
電通コンサルティング
代表取締役社長
電通およびネットイヤーグループにおいて企画・開発事業を立ち上げ、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、電通ネットイヤーアビーム(現・電通コンサルティング)を創業。

 MDBDは、このような成長が停滞している市場のなかで、新たな業態を開発することで次の成長を狙うという方法論である。では具体的に、期待されるリターンを引き出し、特有のリスクを抑えるためには、どのような取り組みが必要なのか。

 及川直彦・電通コンサルティング代表取締役社長は「既存のカテゴリーのなかでは、どう工夫してスペックを上げてもなかなかブレークスルーできない。これまでのように経験価値や品質価値、カテゴリー価値で勝負をするのでなく、従来の業態の“隣り”に、独自価値を持つ新業態を開発しようというのが MDBD の発想だ」と話す。

 及川氏はMDBDのプロセス全体を四つのステップに分けている。STEP1は、顧客利用シーンから提供価値を創造すること。そのためには“ニーズの芽”に気づき、ニーズに応える価値を具現化することが必要になる。