エー・ディー・ワークスのコア事業は収益不動産販売事業である。賃貸マンションなどの収益不動産を購入してリノベーションを施し、その後顧客に販売する事業であるが、同社のビジネスモデルには収益を安定的に拡大するための二重三重の仕掛けが施されている。

田中秀夫 代表取締役社長 CEO

 エー・ディー・ワークスが対象とする収益不動産は、主に1棟で十数世帯規模の賃貸マンションだ。

 「ハード面やソフト面などさまざまな理由で本来の価値を発揮し切れていない物件を、目利き力で見つけ出して仕入れ、内装、外装の工事や入居率向上など資産価値を高めるリノベーションを行い、適切な時期に個人富裕層(オーナー)に販売します。その後は、マンションの日々の管理や長期修繕にも対応。さらにオーナーさまが保有する他の資産のコンサルティングも行います。つまり当グループのバリューチェーンに任せていただくことで、オーナーさまと永続的な関係を築き、オーナーさまの収益の最大化を目指します」

 そう説明する田中秀夫社長は、「Royaltorch(ロイヤルトーチ)」と呼ぶオーナーを対象とした会員組織を2014年に立ち上げた。会員一人一人に専属のプライベートコンサルタントが付き、オーナーが抱えている不動産投資の課題にオーダーメードのソリューションを提案する他、会員が有意義に交流できる懇親会や各種セミナー勉強会などを企画・運営している。会員は200人規模に達した。

棚卸資産が利益を生む
独自の収益モデルを構築

 「会員さまの要望にお応えすることによりビジネスを成長させていくことが、当グループの重要な成長戦略」と田中社長は語るが、財務の視点でビジネスモデルを見ると、また違った景色が見えてくる。

 同社が保有する収益不動産は、販売目的で一時的に保有する「棚卸資産」に該当する。ただ、一般の商品在庫とは異なり、保有期間中は賃料という収益を会社にもたらす。販売時には売却益が得られ、管理の請負や修繕でも長期的・安定的な利益を生む。コンサルティングを行えばコンサル料が得られ、オーナーが買い替えや買い増しをすれば、新たな収益チャンスが生まれる。

 収益不動産を長期保有することで収益力が安定する——。ここに着目した同社は、12年度以降、収益不動産残高を積み増す戦略に転じた。以降、業績は右肩上がりで上昇している。この戦略を支えたのが、過去2回実施したライツ・オファリング※1 だ。

 12年10月の第1回は約5億円を、13年10月の第2回は約22億円を調達した。そして、その資金の大半を収益不動産の積み増しのために投資したのである。その結果が、前述のような「右肩上がり」だ。17年3月期決算も好調で、連結業績計画をおおむね達成し、過去最高益を更新。堅実な業績を継続中である。

※1 ライツ・オファリングは、上場企業が既存株主に対して、自社の株式をあらかじめ定められた価格(「行使価額」という)で購入できる権利(「新株予約権」という)を無償で付与する増資手法。