今、知的財産(知財)の価値が変化している。従来の知財部門の役割といえば、他社特許に抵触しないための調査が主要な業務だった。現在は、特許情報検索サービスの発達もあり、事業戦略策定のための定量的なデータとして重要な役割を担うようになっている。

知財をマーケティングリサーチの
ツールとして役立てる

金沢工業大学大学院
杉光一成教授

東京大学大学院・修士(法学)、東北大学大学院博士(工学)。電機メーカーの知的財産部などを経て現在に至る。専門は知的財産に関する先端領域。公職歴に参議院経済産業委員会調査室・客員研究員、他多数。2009年に経済産業省「知財功労賞」受賞。

 ビジネススクールでは基礎科目であるマーケティング。そのテキストに知財の項目がないことを、知財戦略に詳しい金沢工業大学大学院の杉光一成教授は疑問に思っていた。

 「マーケティングは市場のための学問なのに、その市場をコントロールできる知財の話が抜けているのはおかしい。本来、マーケティングと知財は連動させるべきなのです」

 マーケティングの大家であるフィリップ・コトラー教授に会ったとき、その話をぶつけたところ、同教授もそれに賛同したという。知財は独占排他権ともいわれ、マーケティングのツールとしてうまく使えば市場をコントロールできる。

 さらに最近注目されているのは、知財をマーケティングリサーチに使う「IP(知財)ランドスケープ」という手法だ。

定量的な分析結果を
経営陣に提出する

 「IPランドスケープ」とは、最近欧米企業で使われるようになった用語であり概念だ。

 「これまで知財部門が行ってきた主な業務は、他社特許に抵触しないためという消極的な調査でした。IPランドスケープは、事業として成功するために行う、より積極的な調査といえます。例えば、ある事業を成功させるため、特許データを踏まえ、シナジー効果を生み出すと考えられるアライアンス、あるいはM&A候補先企業を分析します」(杉光教授)

 従来の特許調査と決定的に違うのは、その分析結果を経営陣に提案することだ。従来の経営陣が行ってきた事業環境分析は、定性的なものだった。そこに知財データという客観的かつ定量的なデータを加味すれば、事業戦略を方向付ける有力な根拠となる。

 最近になって、IPランドスケープが可能になったのは、ビッグデータの解析能力が向上したためだ。そのための検索ソフトを提供するサービスも進化している。

 「欧米企業の知財部門担当者にヒアリングをすると、“自分たちの最も重要な業務は、IPランドスケープを経営陣に提示すること、という答えが返ってきます。今や知財は、経営戦略や事業戦略の策定に用いられ、その内容も特許情報に限定せず、マーケット情報なども統合して分析するものになっています」と、杉光教授は報告する。