2020年の大学入試改革を見据えて各校が改革に取り組む中、中学受験生&保護者の学校選びの基準も少しずつ変化している。いうなれば“脱偏差値”。その現状と対策を、早稲田アカデミーの中学受験部長である千葉崇博氏に聞いた。

早稲田アカデミー
千葉崇博
教務本部副本部長 中学受験部長兼教務一課長

 今年の中学受験の特徴を振り返ってみると、脱偏差値。偏差値にとらわれない学校の選び方が顕在化してきたといえます」。そう指摘するのは、早稲田アカデミーの千葉崇博中学受験部長だ。「例えば東京の女子御三家といわれる学校で、補欠合格者の繰り上がりが例年より多く見られました」。校名に頼らず、同じ進学校で他校を選択するケースが出てきたのだ。

 では受験生&保護者は、選択の基準として学校の何を見ているのか。それはその学校が未来をどう捉え、そのためにどのような教育を提供しようとしているか、だという。

「意識の高い保護者が見ているのは、2045年のシンギュラリティの問題です。自分の子どもたちが、人工知能を使う側になるのか、使われる側になるのか。簡単に言えば、使う側になるための教育を与えてくれる学校を選択するようになっているのです」

 英語教育ですら、AIを搭載した翻訳の出現で、ただ話せるだけでは武器にならない時代がやって来るかもしれない。思考力や判断力、表現力など、広く言えば“人工知能を使い、イノベーションを生み出すことのできる”人間に育ててくれる学校が評価される。一方で、有名校や伝統校でも、教育内容が旧態依然で、広報活動に消極的な学校、説明会に力を入れない学校は凋落傾向にある。パラダイムシフトとまではいかないが、保護者の目は厳しくなってきており、「学校選択の物差しは、確実に変わってきています」と千葉部長は語る。

低学年のうちに地頭を鍛えることが大切だという

 そんな中、早稲田アカデミーが取り組んでいるのは、低学年のうちに“地頭”を鍛える試みである。まずは、熱中、没頭できることに集中させ、「新しいことを知ることは、楽しい」と思わせること。ある部分が伸びると、他の能力も勝手に伸びてゆくからだ。

「大切なのは、勉強が好きな子どもたちを受け入れる環境を与えてあげること。公立の小学校では、音楽や美術のコンクールで良い成績を上げると表彰してくれますが、全国模試で一番になってもあまり褒めてくれません。芸術やスポーツと同じように、勉強が好きな子もいるはずで、その活躍に対してきちんと評価してあげることが重要だと思うのです」

中学受験では、試験場へ向かう子どもたちを、塾の先生が励ます風景が見られる

 プロ野球選手で、練習が嫌いな選手はいても、野球そのものが嫌いな人はいないはず。それと同じように、新しいことを知ることが好きで、テストを受けるのが楽しいという気持ちを低学年のうちに育み、高学年では“合格”という目標の達成を狙う。そんな子どもたちのために、早稲田アカデミーは存在したいという。

「これまで多くの子どもたちを見てきましたが、地頭のいい子は日常生活の中で、常に疑問や関心を持ち続けています。そういう子どもは、寝ているとき以外は全て勉強なので、普通の子はかないません。地頭が鍛えられていれば知識は、後からいくらでも吸収できます」と千葉部長。鍛えるべきは、地頭なのだ。

 時代の一歩先を歩んでいる中学受験。社会の変化を最も敏感に反映して動き始めている。