東日本大震災は地方の医療過疎の深刻さを浮き彫りにした。寝たきり患者や、病院が被災して治療を受けられない患者をケアするには、医師自らが患者の元に向かうことが必要。また、津波で多くの医療情報が流されたことは、情報保存のあり方を見直すきっかけとなった。

震災で浮き彫りになった
訪問診療体制の不備

 世界でもいち早く高齢化が進み、医療・介護ニーズが高まり続けている日本。しかし一方で、医師や看護師などの人材は慢性的に不足し、地方財政のひっ迫による公立病院の閉鎖など、医療サービスの質と量の低下が大きな社会問題となっている。

 寝たきりや慢性疾患に苦しむ患者は増え続けているのに、「近くに病院がない」「満足な診断や治療が受けられない」という状況が年々深刻化しているのだ。 

石巻赤十字病院
産婦人科
千坂 泰 部長

  2011年3月11日に起きた東日本大震災は、そうした日本の医療の問題点をあらためて浮き彫りにした。

 甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の沿岸部の大部分は、もともと医療過疎が著しい地域である。そこに大津波が押し寄せ、いくつもの病院や診療所が流されただけでなく、多数の医療関係者の命が奪われた。

 宮城県石巻市の石巻赤十字病院は幸い被害を免れたが、産科医の千坂泰氏は「市内に5ヵ所あった分娩(ぶんべん)施設のうち2ヵ所のクリニックが津波で損壊し、残る2ヵ所も一時閉鎖されて、分娩できる施設は当院だけになってしまいました」と震災直後の状況を語る。 

千坂氏が石巻市から南三陸町に向か うクルマから撮影した風景。写真からも津波による被害の大きさが伝わってくる