最近、東京23区の西端に位置する世田谷区や練馬区でデベロッパーによる高級分譲住宅開発が相次いでいる。どんな客層に向け、どのような住宅が造られているのか。その背景にはどんな市場の動きがあるのだろうか。

西武池袋線の石神井公園駅から徒歩10分、石神井公園そのものから徒歩3分の地に分譲された「ファインコート石神井公園ザ・プレミア」。販売価格は8000万円台〜1億円台の21棟。外観は各棟異なる吹き付けや石使いが個性的で、敷き詰められた通路タイルには石神井公園三宝寺池の水紋がデザインされている。

練馬のブランド住宅地
石神井町6丁目

目黒孝一
めぐろ・こういち/不動産経済研究所で「日刊不動産経済通信」記者として活躍。調査部門で市場分析など各種調査を担当、同社常務取締役を経て退任後、フリーの不動産ジャーナリストに。日本不動産ジャーナリスト会議会員。

 東京の戸建て市場では今、立地がより都心寄りになり、建物の造りも高級化する傾向が顕著だ。この秋は野村不動産の成城学園前物件が1億6800万円の値を付けて話題を呼び、三井不動産レジデンシャルと東京建物による石神井公園物件も練馬区では破格の1億円クラスが出て注目されている。

 建売住宅と注文住宅の分かれ目は、都心では1億5000万円とされる。野村の成城はその基準を超えた挑戦で、三井と東建の1億円クラスは郊外に近いのどかな練馬区石神井公園で“億建て”を実現させた意欲作といえよう。

 実際に、石神井公園の分譲現場を訪ねてみた。所在地の石神井町6丁目は練馬区では最も公示地価が高いブランド住宅地である。ただし、従来は練馬区自体のブランド力が低かったため、他エリアからの集客力は小さかった。

 「現在、来訪者の半数が地元練馬区から、残り半数は広く分散しています。豊洲など東京の東側のマンションを購入後、10年程度住んで家族構成も変わり、もっと広さが欲しいと練馬、世田谷を集中的に探されるお客さまが少なくありません」(三井不動産レジデンシャル「ファインコート石神井公園ザ・プレミア」の宮坂朋伯所長)

室内は最高3mの天井高で、窓から楽しむ緑を考慮して窓の形や数、外の植栽までが設計された

 仮に1億円の物件であれば、土地代が7000万円で建物代が3000万円程度。造る側は3000万円でどれだけの上物を造れるかと、腕を競う。買う側はその出来を評価すればいい。

 ここが、青田買いのマンションとの大きな違いになる。近年はマンションに比して戸建ての割安感が強いから、デベロッパーも高級戸建てを開発しやすくなった。

 「マンションを検討する方は利便性を重視するのに対し、戸建てのお客さまは環境重視という違いがあります。建物だけでなく街を見比べ、資産価値を考え、将来の売却も考え合わせながら物件を選ぶ方が増えました」(宮坂所長)

 10年から20年住んだ後に住み替えるパターンは、マンションでは普通だが、戸建てだと最近出始めた傾向だ。マンションと同じ事業者が戸建ても手掛ければ、比較しやすい側面もあるのだろう。

開放的なバルコニー(左)、便利な階段室収納(右)など、スペースを広く使う工夫が随所に見られる

 石神井公園の物件は天井高が最大3mもあり、スキップフロア(注1)や階段室収納(注2)など高さの工夫で家全体に広がりを生み出し、住みやすさの工夫を随所に凝らしていた。収納力一つとっても、同じ専有面積のマンションに比べ倍近くありそうだ。

(注1) 階段を介し、半階分ずつ高さをずらした床を設ける建築方式。上下階を見渡せる、開放的な空間が形づくられる
(注2) 小屋裏空間をふさぐ形で収納スペースにする屋根裏収納と異なり、階段プラス収納空間をオープンにするもの。開放的で出し入れがしやすい