九州とほぼ同じ面積で、人口は約1700万人(日本のおよそ7分の1)という小国ながら、アメリカに次ぐ世界第2位の農産品輸出量を誇る農業大国・オランダ。この国の農と食のイノベーションを生み出し続ける源泉が、ワーヘニンゲン大学を中心に、世界の食研究・食産業の拠点が集積する「フードバレー」だ。世界一の食品研究開発拠点であるこの地に、現在、キッコーマンは日本企業で唯一、研究開発拠点を置く。Kikkoman Europe R&D Laboratory(KEL)のR&Dマネジャーである金子大輔氏に、食と農の先進地での研究活動について聞いた。

食と農のイノベーションの最先端

── オランダ、ワーヘニンゲン市のラボラトリーについて簡単に教えてください

ワーヘニンゲン大学の広大なキャンパス

金子 ワーヘニンゲン大学を中心としたフードバレー内に、ヨーロッパの研究拠点として 2007年に開設しました。現在のキッコーマンのR&Dは、グローバルな視野に立った研究開発に取り組むために、日本のほかに、ここヨーロッパ、アメリカ、アジア(シンガポール)の4極による研究開発体制となっています。

 日本なら東大や京大でほぼ全分野のトップを占めているようですが、オランダでは、食や農業関連ならワーヘニンゲン大学、医療関連ならユトレヒト大学、人工知能や心理学ならラドバウド大学……と、大学ごとに強みが違い、またそれがはっきりしています。なかでもワーヘニンゲン大学は食と農の分野の世界的権威で、世界中から集まってくる優秀な研究者がイノベーションを絶えず生み出しています。食品関連の学会やイベントも圧倒的に多いので、ネットワークをつくる上でも情報収集の上でも、食品企業として研究拠点を構える意味は大きいと思います。

── そもそもどういう経緯で進出したのでしょうか。

金子 キッコーマンでは1950年代のアメリカ進出に続き、1970年代からはヨーロッパに本格進出し、1997年にはオランダにヨーロッパ初の製造拠点を開設しました。以降、日本と大きく食文化が異なるヨーロッパ市場に醤油を広げるために、「塩より塩分が少なく、ヘルシーでおいしい調味料」という切り口でプロモーションを展開してきました。この研究所では当初、その戦略を裏付けるための研究に取り組んでいたのです。世界の食の最新情報が集まるこの場所に研究拠点を置くことはグローバルな食品企業グループとしてメリットが大きいため、その後も継続しています。

── ワーヘニンゲン大学とはどのように連携していますか。

金子 ラボは大学キャンパスから車で5~10分ぐらいの場所にあり、興味深い研究をしている研究者がいれば直接メールでコンタクトを取ってフランクにミーティングなどができる関係です。そこから本格的に共同研究へと進む場合は、大学のビジネスマネージャーが窓口となり、契約に至るまでのプロセスをコーディネートしてくれます。もちろん日本からでもメールや電話でコンタクトは取れますが、ビジネスの常識も働き方も違うので、やはり離れているとコミュニケーション上の齟齬が起きやすい。その点、この距離なら何かあれば直接会ってコミュニケーションが取れるので、日本からのやり取りと比べると、とてもスピーディーかつスムーズにものごとが進みます。