従業員の安全確保やコスト削減だけでなく、企業倫理の側面からも、社有車を安全運転することの重要性はますます高まっている。ドライバーに安全運転を実践させるには、どうすればいいのか。心理的な背景を踏まえた具体的方策について専門家に話を聞いた。

 

浦工業大学工学部共通学群教授/医学博士・春日伸予氏
心身医学を専門分野とし,コンピュータによるストレスである「テクノストレス」を中心にストレスマネジメントの研究を行う。交通安全の領域においては、ドライバー心理を中心とするヒューマンファクターの研究に従事し、安全教育と支援を推進。安全と環境の両面に好影響を及ぼすエコドライブの推進にも力を入れている。

 自動車を使用するすべての企業にとって、交通事故を防止することは重大な経営課題だ。ひとたび交通事故を起こせば、金銭的な損害や人的損失はもちろん、社会的信用を失うなどダメージも大きい。

 ではなぜ交通事故は起きるのだろうか。心身医学分野のストレスマネジメントの専門家で、交通安全教育に関する研究も行っている芝浦工業大学の春日伸予教授はこう語る。

「事故が起きる原因は二つあります。運転スキルの不足と心理的な問題です。スキルは知識学習や経験を重ねることで身に付けることができます。一方、心理的な問題はドライバーのスキルとは関係ありません。米国には、悩み事のあるドライバーは、ない人の3倍事故を起こしやすいという統計もあります。私たちの研究でも、ストレスが高い状況で運転するとヒヤリハットを起こしやすく、特に自損事故が多いことがわかっています」

気づきを繰り返し
自己をコントロール

 人間関係や仕事の悩み、日常のストレスが頭の中を支配しているような状況では、運転中の危険を察知する集中力が著しく低下し、事故を起こしやすくなる。ストレスをコントロールするのに重要なのは“気づき”だと春日教授は説明する。

「例えば原因不明の腹痛があるとします。内科では異常は発見されず、心療内科でストレスが原因と診断されると“やっぱりそうか”と気づき、それだけで症状が軽くなるという例はよくあります。自分のストレスに気づくことが、ストレスマネジメントの出発点になるのです。気づきの理論は日常のストレスマネジメントだけでなく、運転時のリスクマネジメントにおいても通用します」

 春日教授によれば、運転時のリスクマネジメントに必要な気づきには、いくつかの段階がある。まず(1)は、自分自身の心理的特性や行動特性、運転特性に対する気づき。(2)は、危険の具体的な内容への気づき。どんなときに、どんな事故が起きるかというパターンを知ることだ。

 そして(3)は、(1)と(2)の関係性への気づき。つまり、自分の心理や行動特性と、危険パターンの関係を知ること。「自分はストレス状態では集中力が低下しやすく、ヒヤリハットを起こしやすい」などと気づくことで、安全運転への動機付けとなる。

 こうした気づきと運転の修正を繰り返すことにより、自己コントロール能力と共に安全運転能力も高まるのだ。