自然現象としての「地震」と、社会現象としての「震災」は別のものであると主張するのは、地震学者である島村英紀教授である。地震を防ぐことはできないが、震災の被害を小さくすることはできる。地震国である日本を生きるための知識と備えの方法を聞いた。

 

島村英紀(しまむら・ひでき)1941年東京生まれ。東京大学理学部卒。同大学院修了、理学博士。北海道大学教授、北大地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを経て、武蔵野学院大学特任教授。著書に『巨大地震はなぜ起きる──これだけは知っておこう』『直下型地震 どう備えるか』(共に花伝社)他多数。

 日本を襲う大地震には二つのタイプがあります。「海溝型」と「内陸直下型」です。東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震は海溝型、海底で生まれた海のプレートと、大陸を載せた陸のプレートが衝突することによって生まれる地震です。昨年の3・11のように、マグニチュード(M)9やそれを超えるほどの超巨大地震が起きるのが特徴です。

 一方、日本列島がプレートの動きに押されて、ゆがんだりねじれたりして起こるのが内陸直下型の地震です。直下型はメカニズムが多様な上に、日本のどこを襲っても不思議ではないという厄介な地震で、マグニチュードも最大で7程度と海溝型に比べて小さいのですが、直下型として起こるために大被害を起こします。1995年の阪神・淡路大震災を起こした兵庫県南部地震はこの内陸直下型で、M7.3でした。

 今懸念されているのは、太平洋岸沖で発生する海溝型の地震のうち、東南海地震(44年・M7.9)と南海地震(46年M8.0)に続く、静岡沖を震源とする東海地震です。最悪の場合、三つの地震が全部一緒に起きてしまう「連動地震」が発生する可能性もあり、そうなると西日本から東海にかけて、非常に大きな被害が予想されます。

首都圏に
地震が多い理由

 また、東京では、江戸幕府が置かれて以来、30回近くも震度5や6の地震に襲われてきました。関東地方の地下で、四つのプレート(フィリピン海・北米・太平洋・ユーラシア)が地下で衝突しながら地球深くへ潜り込んでいっているからです。世界中を見回しても、そんな都市は東京だけ。もし太田道灌がこの事実を知っていたら、江戸城をここに築かなかったかもしれません。

 関東大震災を起こした関東地震は、M7.9。海溝型の地震でしたが、地震断層が陸地の下まで延びていたために、直下型の性質を持つ最悪の地震となりました。直下型地震では、M7クラスといわれる安政江戸地震(1855年)が代表的な大地震で、江戸の下町を直撃し、1万人以上が犠牲になったといわれています。

 18世紀の終わりごろから多くの地震が記録に残っているのですが、関東地震以降、東京を襲う地震は激減しています。つまり歴史的に見ると、現在は異常に静かな時代なのです。しかし地震学者の私から見ると、この静けさがいつまでも続くとは思えない。いずれ、大地震の頻発が再開される可能性は高いと考えています。