数多くの町工場が集積する東京・葛飾に、小規模ながら、カーAV取付キットで圧倒的なシェアを誇る企業がある。社員数23人のカナック企画だ。国内製造業にとって厳しい経営環境が続く中、堅調に売り上げを伸ばしている。同社がなぜ業界トップクラスのメーカーとなれたのか、金子高一郎社長に話を聞いた。

金子高一郎 代表取締役社長

 自動車に搭載されている標準的なカーオーディオ機器は、音質やナビにこだわるカーオーナーにはもの足りなく感じることが少なくない。そこで標準品を取りはずし、市販のカーAV機器を搭載し直すことになるが、そんなときに欠かせないのがカーAV取付キットだ。

 この取付キットの国内市場で、対応する取付車種数において他社の追随を許さないのがカナック企画だ。同社がカーAVの企画・開発・設計・販売を担当し、親会社であるカインズが、200にも上る協力会社と共に製造を担っている。

「復興需要やエコカー補助金制度などを背景に国内の新車販売台数が復調しており、ここ数年順調に推移してきた当社の取付キットも、今期の販売台数はさらに伸びています」と金子高一郎社長は語る。

新車をいち早く調査
約600車種に対応

カーAV取付キットは大きく分けて四つの部品から構成されている。パネル(化粧枠)、ブラケット(固定金具)、コネクター、アンテナ変換アダプタだ。コネクターを一つ取っても、同一メーカーでさえ、車種や車両年式によって形状は異なる。一台一台調査し、車種に合ったキットを提供できるのがカナック企画の強みだ。写真は「GE-BM108」と「GE-BM206」を使用した取り付け例。
拡大画像表示

 同社製品の強みは、幅広い車種に対応していること。カタログ上の対応車種は約600種類に上り、過去の年式のものも含めるとその数はさらに増える。競合会社もあるが、軽自動車から輸入車まで全カテゴリーに対応しているのはカナック企画だけだという。

 新車が発売されると、カナック企画ではすぐに取引先のカーディーラーや一般ユーザーから車両を借りて、分解し細部を研究する。車によって、キットを取り付ける窓口の大きさやその周辺の形、配線などがそれぞれ異なり、実車を確認しなければ最適なキットは作れないからだ。人気車種なら最短2カ月でキットを製品化している。

 輸入車向けにも力を入れている。例えば欧州車では、カーAVに必要な電源や信号をまとめた「CAN-Bus」という規格が採用されているが、この対応インターフェースを業界で初めて開発したのがカナック企画だ。これにより、取り付けが難しい輸入車にも、市販カーAVを短時間かつ簡単に取り付けることが可能になった。

 品質の高さも同社製品の強みだ。例えば、取付キットのパネルと車体のフィット感は非常に高く、その隙間は1ミリメートルもない。問い合わせ窓口を設け、製品に不具合があれば迅速な回収・点検を行う。

 高い製品開発力を維持するために、優秀な人材の採用・育成にも力を入れている。「とにかく今は人手が足りないので、採用活動にも力を入れています」と金子社長は語る。

自社ブランド展開で
危機を脱出

 カナック企画の親会社、カインズは1927年に木箱の製造販売で創業し、物流関連事業を発展させてきた。カーAV取付キットに進出したのは、取引先の大手オーディオメーカーから、販促品としてカーステレオ取付金具の製作を依頼されたことがきっかけだ。当時、専用金具などはなく、カーステレオを搭載しても見た目が不格好になっていた。「格好よく取り付けられたらいいよね」という担当者の一言がきっかけで、自社開発をスタートした。

 74年にはカーAV取付キットの製造販売事業を開始。81年には企画開発部門を独立させ、カナック企画を設立した。以後、事業を拡大してきたが、決して順風満帆だったわけではない。