前回(第5回)に登場した出版社に勤めるE子さんのケースについて、今回はE子さん側に視点を移して、彼女の中でいったい何が起こっていたのだろうかということを考えてみましょう。

小さなつまずきのはずが・・・

 E子さんは、有名私立大学を卒業後、念願だった出版社に就職しました。当初はかなり張り切って、意欲的に仕事を覚え、残業も意に介さず頑張っていました。部内での人間関係もとても円満で、与えられた仕事はきっちりこなすしっかりした仕事ぶりなので、上司のTさんも、良い新人が入ってきたと高く評価していました。

 そんなE子さんが不調を感じ始めたのは3年前、上司のTさんからある企画内容について軽い注意を受けたことがきっかけでした。

 「君の思い入れはわかるけど、ちょっとこれはこの仕事の本筋からズレてしまっていると思うんだ。理想論としては君の言う通りだけど、会社が求めている内容は、もう少し一般受けするものなんだよ」

 E子さんは、その企画についてはかなりの自信を持っていただけに、Tさんの言っていることは頭ではわかるけれども、心の奥では自分の存在価値そのものが否定されたように感じてしまったのです。

 「はい、わかりました。すみません。もう一度練り直してみます」

 いつもの笑顔でどうにかその場はやり過ごしたものの、仕事が終わって一人暮らしの部屋に帰ってから、E子さんは無性に虚しくなってきて、気づくと買い置きしてあったスナック菓子やインスタント食品を、お腹も空いていないのに次々に無茶食いしていました。その最中は、まるで何かに取りつかれたようで、何の感情もありませんでした。

 正気に戻って、散乱したゴミの山を見たE子さんは、「何をやってるんだろう! 私って、本当にダメな人間なんだ」と強い自己嫌悪に陥りました。しかし、この日を境に、E子さんは過食をするのが習慣になってしまったのです。

自己嫌悪から自信喪失へ
体にも現れる“異変”

 希望に燃えて就いた仕事だったのですが、「頑張ったからといって必ずしも評価されるとは限らない」という現実を、E子さんは受け止めきれずにいました。学生時代までは、E子さんの努力は常にプラスに評価されてきたからです。

 「ちょっと真面目に考えすぎるんじゃない? もっと力を抜いて発想してみたらいいと思うんだけど」

 上司のTさんからのアドバイスも、本当のところでは意味がわかりませんでした。「真面目に努力することが大切だ」とばかり幼い頃からいつも叩き込まれてきたために、それが問題だと言われてもE子さんは混乱するばかりでした。次第にE子さんは、全体的に自分の考えや感覚に自信が持てなくなっていきました。

 そのうち、このような状況になると決まって強い頭痛や吐気、めまいや腹痛などが起こるようになり、E子さんは会社を休まざるを得なくなりました。これらの症状は、繰り返される度に重症化し、休む日数も長くなっていきました。

 しかし彼女自身は、この体調不良がメンタルな問題から来ているとはまったく思いもしませんでした。