米国の裁判において、ディスカバリ(証拠開示)は重要な位置を占める。訴訟を有利に運ぶ上でのポイントは、訴訟案件に関係する文書を必要十分なレベルで開示すること。そのためには、日本語の処理にたけた事業者を選定する必要がある。ディスカバリ事業者選びを間違えると、肝心の訴訟で不利な状況に追い込まれることもある。

白井喜勝
執行役員 CCTO
クライアントテクノロジー部 部長

 日本を含むアジア諸国の企業が国際訴訟の場に立つケースが増えている。特に米国での裁判において考える必要があるのが、ディスカバリ(証拠開示)への対策だ。その対処の仕方が、訴訟の行方を左右するケースも少なくない。

「米国で事業を行っている企業を取り巻く訴訟リスクはさまざまです。知的財産権やPL(製造物責任)法をめぐる訴訟もあれば、パワーハラスメントなどで社員から訴えられることもあります。また、カルテルの疑いで当局の調査を受けるケースも目立ちます。

 こうした問題は何も米国内だけで起きているわけではありません。例えば、第三国で公務員に対する賄賂等の不正行為によって仕事を受注した日本企業が、FCPA(海外腐敗行為防止法)違反容疑で米国政府機関の調査を受ける場合もあります」とUBICの白井喜勝氏は語る。

 同社は日本におけるディスカバリ事業のパイオニア。国際訴訟に立ち向かう企業のパートナーとして、数多くの実績を有している。

日本語が十分に
扱えるかどうかが重要

 国際訴訟のリスク、そしてディスカバリに対して、日本企業の関心は高まりつつある。

訴訟に関係する文書を集める保全の工程。重要文書を選び切れないと、後で訴訟が不利になることもある。

 白井氏は「特に海外展開に積極的な企業の間で、ディスカバリの重要性への認識は高まりつつあります。ただ、法務部門と経営者の間にはまだ意識のギャップがあるかもしれません」と続ける。

 経営者にとっては、「専門性の高い訴訟案件に立ち入るのは避けたい」という意識が働くのかもしれない。しかし、カルテルの制裁金が数百億円規模に達するケースもあれば、社員が収監されるケースもある。こうした現実を見れば、経営者も真剣に考えざるを得ないだろう。訴訟に際しては、弁護士事務所選びはもちろんだが、ディスカバリ事業者の選定についても十分な注意を払う必要がある。

 ディスカバリ事業者を選ぶ際に、最も注意しなければならないポイントが日本語の扱いである。というのは、海外の弁護士事務所の勧めなどにより日本語処理に不慣れな事業者を選び、後々になって苦労するケースが少なくないからだ。

「ディスカバリ事業者の大半は米国の会社です。ディスカバリに用いられるツールのほとんども英語を前提に開発されているので、日本語への対応が不十分なものも多いのです」と白井氏は話す。

 日本では、昔から独自のさまざまなアプリケーションが利用されていることに加えて、日本語は通常利用されている文字コードが複数存在するので、この分野への理解が不十分なディスカバリ事業者にとっては、扱いが難しい。同様のことが、他のアジア言語についてもいえるようだ。

「韓国語には独自の文字コードがありますし、中国語には簡体と繁体もあります。これらは、基本ユニコードだけで済んでしまう英語とはまったく異質の処理が必要になるのです」と白井氏は解説する。