私が初めて採用業務に携わったのは1990年のことでした。以降、採用担当者として、育成担当者として、人事の責任者として、そして採用側現場の責任者として、立場は変わりつつも、綿々と採用業務に携わってきました。前職の日清製粉グループでは新卒採用が中心でしたが、現在働いている、ぐるなびはもともとは経験者採用が中心でしたが新卒採用を増やしている途上です。

一番最初に手がけた日清製粉の1992年度新卒採用で、勝手に掲げた採用チームのスローガンは「採用は愛とマーケティングだ」というもの。稚拙なスロー ガンではありますが、営業から異動した自分にとってはフィット感のある言葉でした。担当者の目線としては悪くないスローガンだと今でも思いますので、22年を経た今、この連載のタイトルにもさせていただくことにしました。  

採用に本気な会社は
実は少ない

 新卒採用業務を考える延長上で、大学生のキャリア形成にもごく自然に興味が広がりました。研究成果を学会発表したり、大学にもいろいろと出入りしたりしています。仕事のかたわらやっている、一般社団法人 経営学習研究所(http://mallweb.jp/)の活動でも、採用・就職をテーマに何度かイベントを立ち上げてきました。

 ですから、社内外を問わず多くの方とこのテーマについて話をします。面接も日々担当しています。そんな経験と日常の中から、この連載では採用についての個人としてのいくばくかの思いをお伝えしていきたいと思います。

 ちなみに新卒採用と経験者採用は、同じ採用業務ではありますが、かなり異なる性質を持っています。ですからここでは、毎回どちらの採用を扱うかを明確にして話を進めていきます。

 第1回は新卒採用を中心にお話しましょう。

 採用というのは不思議な仕事です。誰もが採用は大事だと言いますが、本気で全社をあげて採用を最重視している企業というのは、実は決して多くはないでしょう。

 よく、経営資源を「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」などと並べたりしますが、私は違和感を抱いています。「モノ」も「カネ」も「情報」も、いずれも人がつくり、人がもたらすものですよね。ですから、「ヒト」は、他の資源とはちょっと違うところに存在しているはずです。これを獲得し、競争優位を実現させる仕事が、最優先事項でないわけがありません。

 にもかかわらず、意外と採用は担当者任せにされていたりします。

 採用のもう1つの特徴は、対象自身が変化することです。つまり、採用した人が成長したり、ふてくされたり、期待外れだったり、大化けしたりするのです。採用時の価値と将来価値は必ずしもイコールではありません。

 これには、職場環境の変数や人材育成の変数が関わっています。個人の事情が影響を与えることもあります。