ここ数年、日本企業によるM&Aが高水準で推移している。中でも目立つのが、日本企業による海外企業の買収だ。持続的な成長を目指す手段としてのM&Aだが、課題も多い。M&Aを行う際の留意点と今後について、専門家がアドバイスする。

 サブプライム問題やその後の欧州ソブリン危機の影響で一時的にしぼんでいた世界のM&A(企業間の合併・買収)が、ここにきて活況を呈している。中でも日本企業による海外企業の買収は2008年ごろから急増しており、バブル期、ITバブル期に次ぐ第3次の海外企業買収ブームが続いているといえる状況だ(下図参照)。

「国内企業同士のいわゆる『In・In』案件は低調です。というのも、銀行や製薬、鉄鋼など大型のM&A案件が一巡したからです。また、サブプライム・ソブリン問題等の影響を脱してM&Aが増加しつつある欧米も日本企業を買う『Out・In』まではまだ手が回らない。しかし海外企業を買収する日本企業の案件は目白押しです」(早稲田大学大学院ファイナンス研究科客員教授・服部暢達氏)

海外企業買収の増加は
欧米企業の再編が要因

服部暢達
早稲田大学大学院ファイナンス研究科客員教授/一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授

東京大学工学部卒業。日産自動車を経て、マサチューセッツ工科大学スローンスクール経営学修士課程修了。米国の大手投資銀行でM&Aのアドバイザリー業務を担当・統括し、日本企業が関係する大型案件を数多く手掛けた。大学院でM&Aと企業価値評価の講義を担当するかたわら、株主価値増大に資するM&Aの研究・評論活動を行っている。

 日本企業による「In・Out」のM&Aが好況な背景にはいくつかの要因がある。

 一つはリーマンショックなどの影響が欧米に比べると少なかったことだが、直近では円安が進んでいるとはいえ、2008年以降の空前の円高が日本企業の購買力を高めてきた面もあった。この間、欧米では景気後退と企業業績の悪化が続き、他社を買収しようといった積極的な動きは減少していた。つまり、欧米が守りで精一杯という時期に、日本企業が相対的に強さを発揮したという図式だった。円相場が大きく反転した現在でもこの勢いはまだ続いている。

 では、そうした日本企業の「In・Out」案件は経営にプラスになってきたのだろうか。M&Aの動向をつぶさに見てきた服部氏は辛口の採点をする。
「直近の第3次ブームによる案件はまだ成否を判断できない部分が多いですが、これまでの案件では大半が失敗していると言えるでしょう。最大の原因は、自社にとって良い(必要な)ものを、適正な価格で買えていないことです。そもそも必要でない企業や部門に手を出したり、必要・有望分野でも高値で買ってしまったり……。当たり前のことができていないことによる失敗です」