古いマンションが抱えているのは、コンクリート劣化などの物理的な問題だけではない。それ以外の要素の方が、実は深刻かもしれない。今、着々と進みつつあるのは、建物の劣化と住民の高齢化という、“ダブルの老化”なのである。

建物劣化より怖いのは
「陳腐化」という現実

 鉄筋コンクリートの建物を人体になぞらえると、鉄筋が骨で、コンクリートが肉になる。たとえば鉄筋の周りのコンクリートが30ミリメートル以下しかない、肉薄で貧弱な建物を、風雨にさらしたまま修繕もせず放っておいたら、肉部分の中性化がどんどん進んでいく。

 その結果、骨の鉄筋がさび、周囲のコンクリートが爆発したようなむき出し状態に至る(「爆裂」という)。こうなると、建物の劣化はもう、誰の目にも明らかだ。

 古いマンションでは、このようなコンクリート爆裂に伴い、外壁が崩れ落ちたり、バルコニーが落下するケースも見られる。

 しかし、定期的に修繕を行っているマンションなら、一気にそこまで達することはない。それぞれのマンションに合った長期修繕計画の下、きちんと手入れを続けていけば、マンションを延命させていくことは十分可能だ。

 一方、古いマンションには陳腐化という別の問題が生じる。

 昭和30年代の団地は、築50年以上になる今も現存している。その暮らしを思い浮かべてほしい。

 専有面積50平方メートル程度の住まいは当時最先端だったが、DK(ダイニングキッチン)といっても食卓を置けば、それだけでいっぱいになる狭さ。洗濯機置き場も脱衣所もない小さな風呂場。床板も薄く上下階の音が響く。もちろんエレベーターなどなく、階段で5階まで上がらねばならない。

 そんな古い団地が今直面しているのは、劣化問題よりも、単純に「毎日の生活の不自由」だ。現在の暮らしが、昔の建物と合わなくなってきているのである。

 こうした事態を陳腐化と呼ぶ。設備の陳腐化は交換することで対処できる部分もあるが、部屋の広さや天井高などの空間の陳腐化は、建て替えなければ解消できない。