2015年の世界のM&A総額は金融危機前の2007年を上回り、過去最高を記録した。その背景にはアクティビスト・ファンドの動きが活発化したことがある。企業にとって敵対的な存在と見られがちなアクティビストだが、近年は機関投資家との連携を深めており、株主提案で勝利するケースが圧倒的に増えている。彼らと対話し、圧力を退けるにはM&Aをはじめとする成長戦略によって株主価値を向上させることが最善の策となる。

アクティビストと
機関投資家が接近

 アクティビストの投資対象が昨今、日本を代表する優良企業にも広がっている。アメリカでは数年前からその前兆があり、あのアップルですらアクティビストの標的になった。

<small>株主価値拡大のためにはM&A巧者たれ</small><br />健全なリスク・テイクで、利益相反を回避せよ渡辺章博
1982年、アメリカに渡りKPMGニューヨーク事務所にて日本企業のアメリカ進出のためのM&A業務に従事。1994年帰国、KPM Gコーポレイトファイナンスの共同代表を経て、2004年GCAサヴィアンを創業。アメリカ・日本公認会計士。『M&Aとガバナンス』(中央経済社、2005年)など著書多数。

 2015年12月に米FRB(連邦準備制度理事会)が金利引き上げを決定するまでは世界的な金融緩和政策によって大量の資金がアクティビスト・ファンドに流れ込み、その投資先がアメリカ国内からヨーロッパ、そして日本へと拡大しているのだ。

 資金量だけでなく、ここ2、3年とその前の10年ではアクティビストの動きが様変わりしている点が注目される。

 その変化を促したのは、機関投資家のアクティビストへの接近だ。エンロン事件などの大型スキャンダル、金融危機、ドッド・フランク法などの規制改革を経て、機関投資家側からアクティビストに接触するようになり、アクティビズムに弾みがついた。長引く超低金利や新興国経済の失速などから運用利回りが低下したことも、アクティビスト・ファンドへの投資マネー流入につながった。その結果、機関投資家の利益となるような提案をアクティビストが企業に対して行うようになったのである。

 つまり、アクティビストが活発に動き回るいまの環境は、機関投資家がつくり出したものである。世界的に見るとアクティビスト・ファンドの提案が勝つ割合は、金融危機前は5割だったが、2015年には8割へと圧倒的に高まってきている(トムソン・ロイターのデータをもとに当社集計)。いまやアクティビズムが投資家に受容される時代へと変化しているのである。

 2015年、世界のM&Aは約4兆7000億ドルと過去最高を更新した。製薬業界ではファイザーとアラガン、ビール業界ではアンハイザー・ブッシュ・インベブとSABミラー、化学業界ではダウ・ケミカルとデュポンなど世界的なトップ・プレーヤー同士の100億ドルどころか1000億ドルを超す大型案件が増加したことが要因だが、これらのM&Aは世界的に景気が不透明となる中で、タックス・インバージョンなどコスト・シナジー重視型が多い。世界的大企業といえども、経営者が少しでも気を緩めるとアクティビストにつけ入る隙を与えることになる。その面で、アクティビストの存在に突き動かされてメガディールが多発したと見ることもできる。

 日米では市場規模もガバナンスの構図も違うため、アメリカ型のアクティビズムがそのまま日本に持ち込まれることは考えにくい。 しかし、日本版のスチュワードシップ・コードに続きコーポレートガバナンス・コードが導入され、海外投資家に対していちだんと門戸が開放される環境が整った。株式持ち合いの解消の影響も鑑みれば、アクティビストが日本市場に目を向け、触手を動かすことは間違いないだろう。