「ウォー・フォー・タレント調査」の結果が示すもの

 少し前のことになるが1997年と2000年に、優れた企業の人材マネジメントの実態を探るための調査がアメリカで行われた。マッキンゼー・アンド・カンパニーが手掛けたもので、その名も「ウォー・フォー・タレント(人材をめぐる採用・育成競争)調査」。

 数十社数千名を巻き込んだこの大規模な調査でわかったのは、「高い業績をあげている企業とそうでない企業との決定的な違いは、特定の人事制度やマネジメントプロセスではなく、“人材がこそが最重要のリソース”ということを経営者や人事のリーダーが信じているかどうか、そしてその信念から派生してさまざまな策を打ち出しているかどうかにある」という結果だった。

「組織とはつまるところ人だ」とか「ヒト・モノ・カネの中で一番大事なのはヒトだ」という経営者や人事パーソンは多いが、それを本気で信じ、ヒトというリソースのために時間とお金と労力を費やしている企業は実はそれほど多くない、ということをハッキリと示す結果だ。

 より具体的には、好業績をあげている企業とそうでない企業との間には、例えば以下のような違いがあることがわかった。

日本企業は「採用」でも世界で負けている現実

 この結果を見て、「あくまでアメリカの調査じゃないか」「アメリカと日本では、採用の慣行が違う」「日本はちょっと特殊だから、他国から学ぶことはない」と思った方も多いことだろう。

「学校卒業後に、職業経験のない新規学卒者を、定期的に一括にしかも大量に採用する新卒一括採用というやり方は、日本企業に固有のものである。これに対して欧米企業では、職業経験や職務に係る知識・スキルに基づく採用が行われ、新規学卒者と職業経験のある既卒者とが同じ職を求めて競い合っている」

 多くの人は、このようなイメージを持っている。こうしたイメージは、日本のビジネスパーソンの中に広く深く浸透し、「だから欧米企業の採用から学ぶことはあまりない」という認識へとつながっているように思われる。「新卒一括採用の日本の企業が、それを前提としないアメリカ企業から学ぶことなどない」という意見、一見正論に見えるけれど、果たしてそうなのだろうか。