90年代半ばをピークに
下がり続ける世帯所得

井端純一 オウチーノ代表取締役社長 兼 CEO
井端純一
いばた・じゅんいち/同志社大学文学部新聞学(現メディア学)専攻卒。リクルートを経て、『週刊CHINTAI』『ZAGAT SURVEY』取締役編集長などを歴任。2003年、オウチーノを設立。著書に『広報・PR・パブリシティ』(電通)、『30年後に絶対後悔しない中古マンションの選び方』『10年後に絶対後悔しない中古一戸建ての選び方』(河出書房新社)など。

 住宅は、構造や工法から、素材、設備機器に至るまで、科学の進歩を反映しながら進化・発展してきた。先日、孫正義社長がイギリスの半導体企業ARMを買収したことで話題になったIoT(あらゆるモノがインターネットにつながることで生活やビジネスが根底から変わる世界)の技術なども、いずれ住宅に生かされてくるだろう。

 人類が英知を結集し、家をより安全で快適に進化させていくことを、私は否定しない。最先端の家を買える人には、進化を支える意味でも、ぜひ買ってほしいと思っている。しかし日本の状況を見渡したとき、そうした家を買える人が一体どれくらいいるのかと嘆息を禁じえない。

 日本の1世帯当たりの平均所得は1994年の664.2万円をピークに下がり続け、2014年には541.9万円と約2割減となっている※1

 かつて日本は「1億総中流社会」と呼ばれ、誰もが自信に満ちていた。中間層が豊かな社会は弱者に優しい社会でもあった。

 ところが今は、年収400万円未満が男性で42%、女性は80%※2を占め、非正規雇用者は約2000万人※3。生活保護受給者は200万人を突破し※4、公的年金受給者は約4000万人※5と総人口の約3分の1に達している。

 格差が広がり、中間層が貧しくなって、弱者への優しさを欠いた冷たい社会になりつつある。いわんや、高性能で高価な新築住宅が買える人などごく少数だ。

※1 厚生労働省「平成27年度国民生活基礎調査の概況」
※2 国税庁「平成26年 民間給与実態統計調査結果」
※3 総務省統計局「労働力調査平成27年平均速報結果」
※4 厚生労働省「平成26年度生活保護受給者の動向等について」
※5 厚生労働省「平成24年度厚生年金保険・国民年金事業の概況について」